2020 Fiscal Year Research-status Report
Study for reviving and succession of lac farming in Cambodia and surrounding countries as an art and craft material
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18K00166
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
北川 美穂 摂南大学, 農学部, 研究員 (60622537)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ラック / ラックカイガラムシ / ラック色素 / ラック樹脂 / 天然色素 / 天然樹脂 / 資源昆虫 / カンボジア |
Outline of Annual Research Achievements |
・ COVID-19感染拡大の影響により、予定していた海外活動を行えなくなったため、インターネットを利用して現地協力者から随時情報収集を行った。カンボジアでの協力組織であるクメール伝統織物研究所(IKTT)はCOVID-19の影響で店舗の一時閉鎖、さらに洪水による浸水被害(大人の肩までの水位)等、ラックプロジェクトの方まで手が回らない状態が継続している。また、タイとカンボジアの陸路も数ヶ月間閉鎖され、本年中に利用するラック等の資材調達に支障が出る可能性もあった。IKTTは9月、カンボジア芸術文化省の企画で開催された「ピダン(カンボジア伝統絵絣)」展に出展。会期後、今後優れたカンボジア伝統染織品の製作を継続するために何が必要かというアンケートに「ラックを含めた染織原料素材の国内供給のための活動」という回答をしていただいた。2021年5月現在までに現地工房の天井に設置していた温湿度データロガーからデータのダウンロード、及び電池交換は行えていない。カンボジア中部の元ラック農家に依頼した再養殖試験は、樹木伐採による環境変化と熱波の影響で失敗に終わった。東部モンドルキリ州の野生ラックは、その後周辺で見つかったという情報は得られていない。 ・ タイ、インド、中国、ラオス、ブータンでも国内移動制限、現地在住の日本人協力者の帰国などの悪条件が重なり、詳しい情報は得られなかった。 ・ 10-11月に開催された第72回正倉院展に年代が判明している世界最古の枝付きのラック(ラックスティック)「紫鉱」が出展され、観察を行った。 ・ 高崎市染料植物園で開催予定だったラック展は2022年に延期になった(今後の状況次第で再延期の可能性あり)が、引き続き展示、講演、ワークショップのための準備を行っている。 ・ 10月、東京藝術大学大学院保存修復油画で天然樹脂とラックについてのリモート授業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・ COVID-19の影響で現地活動が一切行えなかったほか、ラック生産国における現地協力者の帰国、工房閉鎖、移動制限など多数の想定外の事態が発生し、情報収集も困難を極めた。COVID禍中においてもカンボジアでは海外資本による開発、送電のための工事、軍用基地の建設などの様々な理由から、天然森林の樹木伐採が予想をはるかに上回る速度で進んでいる。また、ここ数年来、かつてない猛暑と干ばつ、洪水、 火災など、悪条件が重なり、カンボジア国内のラック養殖はまだ成功に至っていない。しかし、カンボジアでのラック染めをはじめとする染色工程や素材、各地の染織品製作の現状、ラック養殖を希望しているかつてのラック農家の発見、残念ながら生体を確認できなかったものの、野生ラックの生息地を確認(天然の宿主木、生息環境が判明)、ブータンではわずか2軒まで減少したラック農家の離農を阻止し、新規就農者を生むなど、この研究活動による一定の成果は得られている。 ・ 2003年の第15回正倉院展以来17年ぶりの出陳となった「紫鉱」の観察を行うことができた。 ・ COVID-19の影響により、研究成果の発表を兼ねた高崎市染料植物園での成果発表を兼ねた講演会とワークショップが2022年に延期となった(状況次第で再延期の可能性あり)。 ・ 歴史文献等の収集、調査、精査等を逐次実施し、さらにSNSを利用しラック農家や利用者の情報収集に努めているが、言語の障壁などで順調に進んでいない。また、カンボジア国内で協力を得られそうな農業系研究機関が見つかっていない。 ・ 研究代表者の身内の不幸、自身の体調不良により、東京藝術大学での集中講義以外にこれまでの研究成果を発表する機会がなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
・ 研究期間の延長となった本年度も2021年5月の時点でCOVID-19がどこまで収束に向かうか不明であるが、もし可能であれば年度末の3月までに現地調査を行い、次年度以降の方針を検討したいと考える。しかし、5月中旬時点で飛行機の大幅な減便、出入国制限、航空運賃の上昇、PCR検査陰性証明書の義務化、到着後2週間の自主隔離などの厳しい条件が加わっており、従来の予算と日程で従来通りの現地調査を行うことは極めて困難であると考えられる。そのため、これまで複数回の試作を行っている現代版綿臙脂の製作や、染め実験、樹脂や蝋の活用方法の検討、日本に生息する赤色色素を持つカイガラムシの調査など、国内で可能な活動を行う。 ・ 定着しはじめたリモート会議用のアプリケーションの中から安全性が高いものを選択し、リモート研究会、講演会などを開催する。 ・ 2022年に延期となった高崎市染料植物園での展示、講演、ワークショップに向け引き続き展示準備、ワークショップのための試作を行う。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、海外調査研究活動が行えなかったため。 助成金は年度末に予定している現地渡航調査にかかる旅費等の他、国内活動の旅費、資材購入、研究資料の購入に充てる。
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