2021 Fiscal Year Research-status Report
Study for reviving and succession of lac farming in Cambodia and surrounding countries as an art and craft material
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18K00166
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
北川 美穂 摂南大学, 農学部, 研究員 (60622537)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラックカイガラムシ / ラック / カンボジア / 天然色素 / 天然樹脂 / ラック色素 / 資源昆虫 / ラック樹脂 |
Outline of Annual Research Achievements |
・昨年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の影響により、海外での活動を行うことができなかったため、日本国内で遂行可能な活動を行った。 ・インターネット検索と、現地協力者からの情報提供で入手したクメール語によるラック関係文献2本を、日本語検定N-1ランクのカンボジア人に翻訳と文字起こしを依頼した。A.カン・トンヒアン「クメールラック開発のための研究」(2009)、B. ケオ・ナロム著「クメールの音楽と生活」ボンナライ・チョポアンランセイ出版社pp.99~139のうち、ラックを利用するカンボジア伝統儀式について(1995年初版)。このうち、Aの訳文から2009年に政府内でラック復活プロジェクトが提案されていたことが判明したが、コロナ禍の影響もあり、メール及び電話での政府関係者への問い合わせにも返答が得られなかった。 ・2022年度も引き続き現地での活動が困難なことが予想されるため、8月末、研究室内で今後の方針の打ち合わせを行った。その結果、当面、日本国内で遂行可能な関連研究を行うこととし、南方系ラックを用いたと推測される正倉院宝物の平螺鈿背円鏡の接着剤試作を決定。元宮内庁正倉院事務所の成瀬正和氏、東京藝術大学鋳金科教授の赤沼潔氏に協力を依頼し、12月20日、日本画家中神敬子氏を含めた4名で兵庫県立考古博物館加西分館所蔵の唐代の平螺鈿鏡調査を行い、実験用素材と加工機材の調達を行った。 ・2021年11月27日、第21回摂南大学農学セミナーとして、第4回ラック講演会「ラック文化の未来を考える」を開催した。講演者は北川美穂、竹田晋也(京都大学)、谷口陽子(筑波大学)、岩本みどり(クメール伝統織物研究所。電波事情から事前撮影の動画による)の4名。119名の参加申し込みがあり、後日、複数の方からの依頼により、2022年1月5日まで大学公式YouTubeチャンネルで講演アーカイブを配信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・2019年12月の現地調査以降に始まったコロナ禍により、それ以降のカンボジアでの現地調査及び温湿度のデータ収集が行えていない。現地協力先であるクメール伝統織物研究所も当面の売り上げ確保が最優先となり、ラックの試験養殖の担当者が研究所を離れたため、その後の養殖実験も実施できていないほか、研究所に設置した温湿度データロガーも電池交換が出来ず、2020年以降のデータ収集が不能となっている。 ・引き続き現地在住者に情報収集は依頼しているものの、国内の移動制限もあり、野生ラックの情報も2019年のモンドルキリ以降得られていない。カンボジア国内各地のロックダウンと、公立図書館や教育機関を含む政府機関の閉鎖の影響から、情報収集も中断している。 ・カンボジア以外のラック生産国の状況については引き続きインターネットを利用して情報収集を行っている。2018年に生産農家が3件まで激減していたブータンは、残念ながら2021年に1名の離農者が出たものの、コロナによる国境閉鎖の影響から自国産ラックの需要が増加し、昨年度は完売した上、新規の就農者が出たという朗報が得られ、これについては我々の現地での活動の成果と言える。 ・当初2020年11月に高崎市染料植物園で開催予定だった「ラック展」は、引き続き新型コロナウィルスの影響で2023年度以降に再延期となった。
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Strategy for Future Research Activity |
・カンボジア国内の状況が落ち着き次第、政府主導のラック養殖プロジェクトの提案に関わった政府担当者への接触を再度試み、特に今回のコロナ禍での国境閉鎖のような事態が発生し、海外からの供給が困難になった場合にも最低限の量を確保することを目指し、これまでの調査と実験結果を報告し、コロナ禍以降のラック養殖プロジェクトの再始動について勧める。 ・東京藝術大学鋳金科の赤沼潔教授に正倉院平螺鈿鏡の合金比率で特注した実験用の小型金銅鏡を利用し、螺鈿、琥珀、トルコ石等の加飾材をラックと乳香を用いて接着する試作実験を行う。また、数年にわたり試作を行っている普及版の綿臙脂についても完成と公開を目指す。 ・年度末までに現地渡航が可能になれば、これまでの協力者、かつてのラック養殖地の関係者等から最新情報を収集し、現在のカンボジア国内の気候環境下におけるラック養殖の適地と、最適なホストツリーを検討するなど、次年度以降の進め方を検討する。渡航できない地域の関係者からも引き続きメール等を利用し情報を提供していただく。 ・これまでの研究結果等について、ホームページでの情報公開を行うほか、海外現地調査が引き続き困難と判断された場合、報告書として冊子の発行を検討する。
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Causes of Carryover |
・コロナ禍により、予定していたカンボジアでの研究調査活動が遂行できなかったため。 ・年度末までに海外渡航が可能となれば、主に現地渡航並びに現地活動費用として使用する。コロナ以降、旅客定期便の減便と感染対策経費の増額から、旅費滞在費がこれまでより高額になることが想定されるため、可能な限り年度後半まで渡航費用を残すが、諸事情から現地調査活動が引き続き困難と考えられる場合、ホームページの作成のほか、これまでの成果報告を印刷物として発行する準備も平行して行う。 ・その他、日本国内での調査研究活動及び研究打ち合わせにかかる旅費、通信費、実験にかかる材料費、また、新たにクメール語文献が見つかれば、その翻訳代金として使用する。
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