2022 Fiscal Year Research-status Report
Study for reviving and succession of lac farming in Cambodia and surrounding countries as an art and craft material
Project/Area Number |
18K00166
|
Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
北川 美穂 摂南大学, 農学部, 研究員 (60622537)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ラックカイガラムシ / ラック / カンボジア / 天然色素 / 天然樹脂 / ラック色素 / 資源昆虫 / ラック樹脂 |
Outline of Annual Research Achievements |
・主な調査活動地がカンボジアの農村部であるため、2020年から継続している新型コロナウィルス感染症の影響による渡航・移動制限のほか、新たに死者が報告されたカンボジア国内での鳥インフルエンザの影響も考慮し、カンボジア国内での調査実験活動は実施しなかった。
・長期化するコロナ禍中でも国内で可能な研究活動として、カンボジアで染色に使用された残りのラック樹脂の状態からヒントを得、2021年末より東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター・センター長の成瀬正和教授のご協力を得、正倉院所蔵の平螺鈿背円鏡の加飾材の充填接着剤と考えられるラックの利用についての研究を開始。同年に実施した兵庫県立考古博物館加西分館所蔵の、正倉院所蔵品と同時代作と考えられている平螺鈿鏡の調査結果も踏まえ、調査にご参加頂いた東京藝術大学美術学部工芸科の赤沼潔教授(鋳金・当時)に正倉院の平螺鈿背円鏡の鏡胎の合金比率に近い割合の実験用の小型鏡胎、2種4枚を製作いただき、それを用いての夜光貝片並びに貴石類の加工・接着実験を開始した。また、愛知教育大学創造科学系美術教育講座教授の遠藤透教授からは古代鏡の復元製作に関する情報のご提供を頂いた。
・カンボジアでの協力組織、クメール伝統織物研究所にインド農業研究委員会-インド天然樹脂研究所(ICAR-Indian Institute of Natural Resins and Gums)の研究者K.Thamilarasi博士からカンボジアのラックについての問い合わせがあり、同氏及び所長のK.Sharma博士、2016年第二回ラック講演会へご参加いただくため日本へ招聘した前所長のR.Ramani博士にカンボジアでのラック養殖とラック文化の概要説明と関連文献、これまで行った現地調査の内容を英訳、送付した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
・カンボジア、シェムリアップ市郊外のクメール伝統織物研究所の伝統の森敷地内の養殖実験に洪水、野火などの災害によるラックの滅失後、かつてのラック養殖農家に依頼した試験養殖も不成功に終わり、ヴェトナム国境の近いモンドルキリ地区の野生ラックについても、その後の目撃情報がないまま、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で2020年より現地での調査活動が行えなかったため。
・現地に滞在する関係者並びに協力者に引き続き情報提供を依頼しているが、コロナ禍での移動・行動制限などの影響もあり、有力な情報や問い合わせに関する返答が得られなかった。
・平螺鈿背円鏡の接着実験については、工程手順に様々なバリエーションが考えられるほか、鏡胎の研磨方法、樹脂を溶かすための適温を保つ方法と、貝と貴石の加工方法の検証等について時間がかかっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
・2023年5月8日より海外への渡航制限が解除されたため、共同研究もしくは研究協力を提案されたインド天然樹脂研究所の研究者とも協議の上、ラックカイガラムシの生活環境に合った調査時期(12月頃)にカンボジアに渡航する。現地協力者らに経過報告を行い、コロナ禍以降の現地情勢の変化も踏まえ、今後の研究活動方針について全体協議を行う。これまでの調査実験活動、およびタイ、インドなど周辺のラック生産国において、地球温暖化および森林伐採の影響による熱波からの不作が続いていることは否定できない。カンボジアでのラック養殖の復興を考えるのであれば、本研究の最初の実験地である、低地のシェムリアップでなく、標高が高く木々に囲まれ、水害を避けられる養殖候補地及び現地協力者を探す方向で検討したいと考える。具体的には2019年に野生ラックの生息が確認できた東部モンドルキリ地区、未調査のラタナキリ地区での調査を行いたく考えている。
・2019年6月にJICAカンボジア事務所職員の紹介を受け面会した政府文化芸術省のS.S氏とS.P氏はカンボジア伝統染織に関して理解があり、国内でのラックを用いたワークショップの開催の提案に大変前向きな反応を頂いていたものの、その後の新型コロナの影響より計画を進めることができなかった。将来のラック養殖復活を目指すためにも、同年にラックの自生が確認されたモンドルキリ地区で活動する染織グループと連携するなどの具体案を作成し、その実現を目指す。
・2021年度から開始した、平螺鈿背円鏡の螺鈿貝及び貴石類などの加飾材料のラックを用いた接着実験についても引き続き継続し、途絶えた古典技法の解明とラック樹脂の特性も科学的に検証する。これにより、染色工程で不要となるラック樹脂を用いた工芸品のへの展開も検討、提案する。
|
Causes of Carryover |
・新型コロナウィルス感染症の影響による海外渡航制限などにより、引き続き現地での調査実験活動が実施できなかったため。
・共同研究を提案されたインド天然樹脂研究所の研究者と協議の上、本年度中に現地渡航を行い、これまでの総括ならびに今後の方針を決定する。小雨高温などの気候変動及び周辺地域の森林伐採、数年おきに発生する洪水の影響からこのプロジェクトで試験養殖を行ったシェムリアップ郊外と、かつてのカンボジアラックのメイン産地であったクラチェではうまく行かない可能性が高いことがわかったため、これらの地域以外でのカンボジア国内の養殖適地として東部の高地を検討する。また、カンボジアではかつて身近な存在であったラックについて、現地の方に再認識していただけるような体験型ワークショップを、ラック養殖候補地に近い場所での開催を計画する。
|
Research Products
(1 results)