2018 Fiscal Year Research-status Report
鎌倉ノートを一次資料とした染織語彙集の作成及び琉球・沖縄染織の総合的研究
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18K00167
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
久貝 典子 沖縄県立芸術大学, 付置研究所, 研究員 (30812979)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 染織物 / 琉球 / 歴史 / 文化 / 交易 / 貢納布 / 輸入織物 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の主な研究活動は、不足している資料の収集や分析を中心に、公開研究発表会の司会・発表等を行った。 資料収集では、近世から幕末にかけての琉球産の布に関し、貢納布関係資料や、海外から流入したとされる布について新たな資料を得るため、琉球絣事業組合・那覇市伝統工芸館及び沖縄県内の図書館や博物館、資料館等を訪問し、資料収集を行った。県外では長崎歴史文化博物館を訪ね、『見帳』(文化10年・嘉永6年ほか)、『嘉永四亥七番割 琉球産端物見帳』等の撮影及び同書に関する周辺資料の収集を行った。 沖縄文化協会2018年度公開研究発表会では、清水友理子氏発表「琉球ガラスの文化史」(7月1日)の司会、同協会第3回東京公開研究発表会にて「近世~幕末における琉球産の布の諸相」を発表した(9月29日)。公開研究発表では、沖縄の染織物が伝統的工芸品として13品に及ぶ国指定を受けた理由に、近世琉球の厳格な貢納布制度、琉球と明清中国の交易の強い影響などが結果的に琉球産の布に独特の個性美や高度な技術を齎し、貨幣的価値が高まり全国に流通したこと、薩摩を介した長崎貿易によって琉球を通過した(と想定される)諸外国の布も影響を与えた可能性があることを、考察が及ぶ範囲で発表した。 2018年度の資料収集や公開発表等の活動を活かし、本年度は次の点に重点をおいて研究を展開する。第一は、経済史や海外交渉史等の分野からある程度蓄積のある貢納布関係・交易関係の研究を参照し、実証性を高めたい。第二に近世琉球の染織用語はすでに歴史的用語となっているが、現存する実物資料、又は復元した資料に比定できるものについて整理しつつ解釈を行いたい。これらの点を重視し論文に着手する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究では、公開発表を含め、近世琉球の布の諸相について全体を概観することを試みた。 沖縄染織物の現在に至る多様性・技術の高さについては、近世の厳格な貢納布制度や、明清中国との交易が大きな影響を与えていると考える。そのように考察する理由として、近世では布は貨幣の一つ(「布価」の概念)という価値観が存在し、そのため①琉球では宮古・八重山・久米島に人頭税が導入され、上布・中布・下布(苧麻布)や芭蕉布・紬・木綿布などを薩摩藩へ納税した歴史があったこと、薩摩藩では近世中期以降②貢納布として徴収した布等のほかに、商人に命じて現地買付を奨励していたこと、③琉球が冠船貿易で得た糸・反物の外に、薩摩藩主導でいわゆる密貿易品として長崎会所へ運ばれた西洋産の布があった等の史実を裏付ける文献資料に依拠する。従って現在に至る沖縄染織物の多様性は、前掲①~③項について、収集した一次資料を分析・解説することで概観できる。ただし、③の課題に関しては一次資料が全国の資料館等に点在しており、入手したもので最適な資料は阪巻・宝玲文庫『嘉永四亥七番割 琉球産端物見帳』(ハワイ大学マノア校ハミルトン図書館所蔵:琉球大学附属図書館デジタルアーカイブ資料HW680)1点である。従って解説のまとめが難航することを予想していたが、最近になり、那覇市歴史博物館所蔵の尚家資料(衣装)の裏に同資料と類似した織物が使用されていることを突き止めた。同資料では「羅紗」「すためん」といういわゆる毛織物の名称が多数記録されているが、その毛織物に類似するものが使用され、また実際に復元されていることがわかったので、本年度の論文作成に③項を整理した部分を挿入し、まとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、「現在までの進捗状況」で報告した通り、①~③までの課題に取り組み、近世琉球の布の諸相の概観を描くことに努めたい。 研究発表としては、6月「沖縄文化協会公開研究発表会」(決定)、11月に「第4回 東アジア研究者協議会」パネル自由参加(決定)、12月または翌年1月「沖縄民俗学会」にて発表を行う予定である。 11月のパネル自由参加では、研究協力者として筆者のほか4名(計5名)が参加する。具体的には宮城奈々「近世琉球の麻系染織資料調査 ―芭蕉・苧麻・桐板―」、仲間伸恵「地域文化継承への取り組み ―沖縄県宮古島の苧麻文化をめぐる体験学習―」、久貝典子「近世琉球の布の諸相について」が研究を発表、その後討論者として平良勝保・比嘉吉志が参加して発表趣旨をまとめるという形式となる。発表者・討論者ともに、論文・コメント等をまとめ、同公開発表会での報告集か、または年度のまとめとして自主報告集を出す計画である。
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Causes of Carryover |
初年度の計画としては、物品費500千円、旅費500千円、謝金100千円、その他100千円の計1,200千円を計上した。そのうちの各実支出額は、概算で物品費293千円、旅費130千円、謝金0円、その他27千円となった。 差額が生じた理由としてそれぞれ説明する。まず物品費についてはパソコン等の機器が想定以上に低価格であったことと、ベースとなる機種がそろえば研究が支障なく進むことがわかったからである。また旅費については、年初計画においては調査地を県外に幾つか設定していたが、沖縄県内では近年『歴代宝案』ほかの漢籍研究、近世琉球の租税研究(貢納布関係)、琉球―中国―日本との交易史研究等が目覚ましく進展している。さらに尚家衣装関係の復元事業が進んでおり、それらの研究を取り込み、これまで蓄積した研究データの補完を重点的に行ったため、県内の調査を重視し、県外での調査回数を省いたことによる。そのため謝金も殆ど使用せず、その他についても予算を大きく下回る結果となった。しかし、本年度は県外での調査を再開し、また11月に研究協力者4名を得て台湾大学でチームとして研究発表を行う計画である。よって旅費は先年度未使用分の370千円と本年度計上分の旅費500千円を併せ、謝金その他もそれぞれ先年度分と併せて各々200千円を使用する計画である。
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Research Products
(4 results)