2020 Fiscal Year Research-status Report
鎌倉ノートを一次資料とした染織語彙集の作成及び琉球・沖縄染織の総合的研究
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18K00167
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
久貝 典子 沖縄県立芸術大学, 芸術文化研究所, 研究員 (30812979)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 琉球 / 染織物 / 染織物の技術 / 貢布 / 琉球産布 / 交易 / 輸入織物 / 首里城 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナウィルスの影響により、各調査地への移動を禁止、又は制限されることが多かったので、前年までの研究の成果等をまとめることに専念した。それぞれの成果については、次の通り報告する。 1.報告集の出版 2019年は、11月1日-3日間の日程で台湾大学で開かれた日本研究者協議会大会第4回国際学術大会(EACJS)に参加したが、本年「琉球・沖縄の染織物の諸相について」と題し、報告した内容の記録集を、10月25日に刊行した。同論集の構成は以下の通りである。PP.1-12までは参加発表者の久貝(全体報告)・宮城奈々・仲間伸恵・平良勝保・比嘉吉志の参加日程リポート、以下は久貝「近世琉球の布をめぐる諸相について」PP.13-28、宮城「近世琉球における芭蕉布・上布・桐板布の研究 ―文献史料と実物資料の検証―」PP.29-40、仲間「地域文化継承への取り組み―沖縄県宮古島の苧麻布文化をめぐる体験学習」PP.41-48、平良「近世・近代旧慣期の先島産貢布・琉球産布と三都市場」PP.49-56、比嘉「琉球国の近世末期における西洋布と西洋かせ ―文献史料に見るその解釈をめぐる問題について―」PP.57-64、久貝「解題」PP.65-68、総頁数70頁。 2.執筆活動 「首里グスクを中心とした衣文化 ―三山時代から近世琉球国後期頃まで―」と題した論考を『アジア遊学』首里城特集号に提出した(なお、同号は現在雑誌の特集ではなく単行本として出版する計画のようである)。独立した同論文の構成は次の通り。一.国王から諸臣の衣裳について、二.庶民の衣裳について、三.女性の衣裳について、四.首里を中心とした衣文化。以上が前掲書に提出した論考の章建てである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」でも若干触れたが、報告書『東アジア日本研究者協議会・第4回国際学術大会参加発表論集 第3分科会 琉球・沖縄の染織物の諸相について』を、本年10月25日に刊行した(でいご印刷)。同書は前掲大会に共に参加した琉球史・染織物の復元事業・教育を専門分野とする5名の発表内容を記録したものである。筆者は本書の中で、三山時代(14-15世紀頃)より近世琉球に至る期間について、これまで尚家の衣裳と金武町の踊り衣裳資料の裏に長崎貿易関係資料に記された「羅紗」「すためん」に相当する毛織物が使用されていた資料の存在を確認した成果を含め、近世琉球の服飾史を概論的にまとめ、要点的に報告した。 次に、一次資料及び現段階までの研究成果を整理し、「首里グスクを中心とした衣文化 ―三山時代から近世琉球国後期頃まで―」と名付けた論文をまとめた。同論文は勉誠出版の刊本として出版される予定となっており、これまでにまとめた研究内容の整理と今後の課題について、要点を選択して記述した。 現在までの進捗状況を確認するとほぼ予定通りに進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度にまとめた「首里グスクを中心とした衣文化 ―三山時代から近世琉球国後期頃まで―」と題した論文は、これまでの研究で鎌倉芳太郎資料集を一次資料とした研究のほか、舶来織物が琉球国でも使用されていたことなどの新たな事例を加え、首里を中心とした士族・庶民の衣文化、女性の衣文化等についてまとめたものである。本論文をまとめ、今後の琉球・沖縄の染織物の諸相を描くにあたって①布を中心とした交易、②琉球産布の生産、③琉球産布の各地への伝播、④琉球・沖縄の服飾文化という方向での研究が重要であることがより明確となった。 前年度までの進捗状況を踏まえ、本年度は、琉球に入ってきた舶来織物や、貢布を含めた琉球産反布の流通の諸相の解明に努める。具体的には、『歴代宝案』等の史料に散見される文字資料が実物資料のどれに相当するか特定する研究、琉球国内外で染織物がどのように流通していたのかを確認する研究を推進する必要がある。そのためには、史資料の精読と実見調査が重要となる。コロナ禍の現状で若干厳しい点もあるが、それらの調査研究を可能な限り推進する。また、研究で得た成果も各学会等で積極的に公開する。それらの結果を反映させ、琉球・沖縄の服飾文化研究書として刊行すること、以上が今年度以降の研究目標であり、今後の研究の推進方策である。
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Causes of Carryover |
前年度は、新型コロナウィルス感染症の影響により、4月7日「緊急事態宣言」が発令されて以降、沖縄県内の市町村及び各都道府県をまたぐ移動等が制限された。そのため今年度予定をしていた調査地における実見調査がほぼ行えなくなり、また文献調査さえも不可能な期間が生じ、調査に係る旅費・人件費・謝金の支出額が0となった。 本年度も前年同様、移動を伴う調査活動は、ある程度の制限を受けると予想するので、旅費・人件費・謝金等を支出することが不可能な状態になる可能性を考慮し、次年度に繰り越した使用額は、自著の執筆活動に必要な物品(図書ほか)・その他(印刷製本費用)等に当てることも予定している。
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