2018 Fiscal Year Research-status Report
The sublation of the conflict between representing nature and imitating old styles in Chinse literati landscape painting from the early Yuan to the late Ming
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18K00170
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
宮崎 法子 実践女子大学, 文学部, 教授 (20135601)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 実景山水 / 董其昌 / 陳継儒 / 婉レン草堂図 / 松郡九峰 / 師古と師造化 / 燕呉八景 / 明末における絵画の流通 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、特に中国江南の文人画家の活躍の場であった南京、宣城、蘇州、松江の現地調査を重点的に行った。また、大阪市立美術館や九州大学の国際シンポジュウムに参加し、研究者との交流、情報交換を行った。特に、上海博物館における董其昌書画芸術国際研討会に参加し、董其昌の初期山水制作における実景の意義について、研究発表を行うとともに、新たな情報を入手したことは大きな成果である。また、台北故宮の調査を通じて、董其昌と同時代の美術市場に関する考察を行い、中文論文として発表した。 当初の計画では、2018年度は、元代の文人画家における実景描写について研究を進める予定であったが、上述の2019年1月の上海博物館における董其昌書画芸術国際研討会への招聘を受けて、最終年度に予定していた明末董其昌についての研究調査を先行させ、代表作≪婉レン草堂図≫など初期の山水制作における実景の重要性を明らかにし、中文論文「従董其昌≪婉luan草堂図≫看”以天池為師”」を予稿集に寄稿した上で、口頭発表を行った。一般に、実景とは無縁に胸中の景を描いたとみなされてきた董其昌の山水制作において、故郷の松江の景への強い執着が作品に表れていることを、作品と実景の比較と文献の裏付けを通じて明らかにしたことに、台湾や在米の研究者を中心に大きな反響を得た。また、現地松江の研究者との交流によって、これまで調査が困難であった現地の旧跡の現状についての有益な情報を得、今後の調査の協力を取り付けることが出来た。それらの新知見を反映する形で、学科紀要『実践女子大学美学美術史學』33号(2019年3月刊行)に、日文の論文も発表した。また、予稿集に掲載された中文論文は、完全原稿を今年10月までに送付し、正式の論文集として刊行される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、元代から時代を下る形で研究を進める予定であったが、上海での国際シンポジュウムのテーマに合わせて、最終年度に計画していた明末の董其昌における実景と倣古の問題に関して、調査研究を進め、その初期の山水画制作における実景の意義を明らかにし、シンポジュウムの予稿集に中文論文を寄稿し、口頭発表を行った。その国際シンポジュウムで得た新たな人脈によって、現地の最新の情報を入手し、それらを反映した日本語論文を学科紀要に発表した。このように、本研究の最終年度に計画していた董其昌の作画における倣古と実景描写に関する考察の半ば以上が、すでに達成された。また、同時に、董其昌と同時代の明末江南の絵画市場と絵画の流通状況に関する考察も台湾で発表した。 今後、時代をさかのぼり、董其昌に至る文人山水画の系譜における、倣古と実景との関わりについて、それを取り巻く社会状況や絵画史上の状況も視野に入れつつ考察を進める予定であるが、その際、文人画理論の大成者であった董其昌の初期作品における実景の意義と倣古との関係性についての新知見を国際シンポジュウムで発表し、また絵画の流通や市場についての論考も海外で発表したこと、さらに、それらの研究を通じて今後の研究の方向や研究方法を明確にし得た点からも、初年度の研究としては、大きな進展がみられたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、まず、予稿として提出した董其昌の初期の制作における実景と倣古に関する論考を補足し完成させ、中文論文として公刊する。また、董其昌の後期の作品について考察すると同時に、董其昌に連なる文人画の系譜上の画家たち、元の四大家のうち、特に黄公望、王蒙の作画における倣古と実景の関わりについて、現地調査と文献研究、作品研究から多角的に考察を進める。なかでも、王蒙の代表作であり、故郷湖州の青弁山を描いた≪青卞隠居図≫について、同名の作品を描いた記録のある彼の祖父趙孟フからの影響を想定しつつ、実景との比較や文献を援用して考察を進め、さらに、同じ青弁山を描いた董其昌の中年期の代表作≪青弁山図≫の制作背景を考察し、王蒙画との比較を行う。それは、董其昌の後半期における実景と倣古の関係についての研究に連動するものである。このように3人の代表的な文人画家が描いた青弁山を核に、文人山水画における倣古と実景描写の問題を解明する。 また、以上の研究を通して、元四大家と董其昌を結ぶ系譜上にあり、王蒙の影響を強く受けた明の呉派の沈周、文徴明の作画において、倣古と実景描写が、どのように継承されたか、或いは変容していったのかという、課題についても、今後の方向を見極めていく。
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Causes of Carryover |
初年度、地誌類のデジタル資料購入を予定していたが、別基金により、それらの一部を含む大部のデジタル資料≪続修四庫全書≫の大学図書館への購入が決定したため、当科研での購入が不要になった。その分、当初より多くの予算を調査旅費に充てることにしたが、学事日程との兼ね合いもあり、日程的にこれ以上の調査を実施することはできなかった。その分を、2019年度に繰り越し、調査旅費や、他の新たに出版される資料の充実を図る予定である。
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