2018 Fiscal Year Research-status Report
作品制作をする美術愛好家―18世紀フランスを中心とした美術家の戦略と趣味の変容
Project/Area Number |
18K00173
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
船岡 美穂子 東京藝術大学, 美術学部, 講師 (90597882)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 愛好家 / ディレッタント / 18世紀 / フランス / シャルダン / アカデミー / ディドロ / 『百科全書』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀後半のフランス、及びその影響下にあったスウェーデン、ロシアをはじめとする周辺国を対象として、美術愛好家たちの間で流行するようになった余技としての作品制作が、①どのようなものであり、②ディレッタントとしての制作の実践を通して育まれた、新たな関心・知識がいかなるもので、③美術の趣味がどのように変化したのか、④専門の美術家たちの作品制作は、①・②に対してどのような戦略を持ち、また影響関係にあったのかを明らかにしようとするものである。 本年度はまず、これまでに既に行っていた予備調査をまとめつつ、主要な美術愛好家をリストアップし、関連文献の収集と読解を進めた。次に、上記①についていえば、1747年に王立絵画彫刻アカデミーに美術愛好家を対象とした自由会員制度が加えられて、作品制作が推奨されたことに着目し、その実態を探った。また、「愛好家」を論題とした当時の講演会やテキストの内容、またサロンでの作品展示や批評の分析も進めた。 本年度後半には、フランスを中心として海外調査を実施し、関連する一次史料を収集するとともに、①・②を解明するために、美術愛好家による現存作品や、美術愛好家像を描いた作品を、図書館や版画素描室や美術館において実見調査し、未公刊の画像も収集することができた。③について言えば、以上の調査の成果を踏まえてさらにシャルダンの個別作品の研究を行い、論文を執筆して報告することができた。④の課題は、上記の調査をもとに現在も研究中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の予定は、主に以下であった。研究目的に沿って主要な美術愛好家をリストアップし、関連文献の収集と読解を進めること、そしてヨーロッパでの調査を実施して美術愛好家による作品を実見調査すること、重要であることが判明したコレクションの内容を調査することであった。 これらの計画をほぼ予定通りに進めることができたばかりでなく、シャルダンによる絵画作品《デッサンの勉強》ならびにピガールによる彫刻作品《踵に小翼をつけるメルクリウス》を対象に個別研究を進め、18世紀フランス美術を愛好する愛国的な趣味があらわれていたこと、ならびに当時の公式展覧会であるサロンが美術愛好家の趣味や名声にとっても重要な機能を担っていたことを具体的に明らかにし、論文を執筆・刊行することができた。さらに、『百科全書』をはじめとする18世紀フランスの事典・辞典における「愛好家 amateur」の語義の変遷と、作品制作の様相、およびアカデミーでの会員制度と理念にかんしても調査を行い、別の論文を現在準備中である。 このように当初の研究計画よりも基礎調査が進捗し、予想よりも早い段階で研究成果の一部を論文にまとめることができた。従って、次年度に予定していた調査のいくつかを本年度に前倒して実施するべく、海外調査の滞在期間を延長して調査地・調査対象を増やす必要が生じたため、予算を前倒して使用した。その結果、さらに多くの美術愛好家の作品を実見し、コレクション内容との比較検討を行うことができた。また、上記③・④の問題にかんして、画家の表現技法にたいする受容者の関心・評価の高まりと、ディレッタントとしての制作経験との関連性を考察し、論文執筆に取り組むことができた。 以上のことから、本年度は当初の計画以上に進展していると判断することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に得られた知見や成果をもとに、次年度以降も海外調査を実施し、さらに他の美術愛好家の蒐集品の分析をするとともに、作品調査を継続する。画技をたしなむ美術愛好家の姿が反映されている可能性の高い絵画作品の考察にも着手し、美術愛好家の理想的イメージも検討する予定である。得られた成果は、論文にまとめてゆきたい。 2020年度は、美術家たちの制作が、余技を嗜む美術愛好家の趣味を意識していたことを明らかにすべく、美術理論やサロン批評の再解釈を試みる。あわせて、フランス国外の愛好家の調査も進めたい。 また、上記の調査研究を進めていく過程で、重要であることが判明した対象や事柄には重点を置いたり、進捗状況に応じて予定を再検討したりするなど、柔軟な対応に努める。
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Causes of Carryover |
本年度は、研究計画が当初の予定よりも進捗したために、次年度以降の計画に着手することにした。そのための前倒し請求により、既に実際には初年度の予算以上に使用している。また、前倒し請求分の予算のうち若干の次年度使用額が生じた理由は、年度末に海外の書店に文献を注文した際に、レートの変動によって予定金額よりも差額が生じたためである。
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