2020 Fiscal Year Research-status Report
作品制作をする美術愛好家―18世紀フランスを中心とした美術家の戦略と趣味の変容
Project/Area Number |
18K00173
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
船岡 美穂子 東京藝術大学, 美術学部, 講師 (90597882)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 愛好家 / ディレッタント / 18世紀 / フランス / レンブラント / シャルダン / アカデミー / 色彩派 |
Outline of Annual Research Achievements |
17世紀末から始まる色彩論争で勝利した、ロジェ・ド・ピールらの色彩派の理論を継承しつつ、フランスの美術愛好家や批評家の間では、18世紀後半期にかけて巧みな筆致を用いた色彩法や明暗法をはじめとする絵画技法に対する関心が高まってゆく。昨年までに行った調査研究の過程で、レンブラントに対する評価の高まりと流行が、こうした絵画技法に対する関心と重なっていたばかりでなく、美術愛好家たちの余技としての作品制作にも影響を与えた可能性が浮かび上がった。 そこで本年度は、当初の計画通り、18世紀フランスのレンブラント受容をテーマとし、先行研究の文献資料の収集と読解、一次史料の調査を行い、レンブラント趣味の観点から美術愛好家による作品や著作、またサロン評における同時期の作品評価の分析を進めた。17世紀から18世紀にかけてのレンブラント評価の変遷をたどると、主に色彩法や明暗法、筆触に対する高い評価の一方で、素描力や遠近法の不正確さ、さらには古典主義的教育が乏しいことが欠点として挙げられる傾向が認められた。18世紀後半期になると、フランスではレンブラントのカタログ・レゾネや画家伝が刊行されて、その作品がさらに熱心に蒐集されるようになるとともに、美術愛好家たちは、とりわけその作品の模写を好んで行うようになる。また、この時期には、上述のレンブラントの欠点よりも長所を重視する論調も見られるようになる。 レンブラントを模写した美術愛好家による銅版画の作品分析をした結果、職業美術家としての専門教育を受けていない素人である美術愛好家にとって、レンブラントの作品は、素描よりも明暗法や自由な筆致に力点が置かれるがゆえに、技量の欠点を補いやすかった可能性が高いことを指摘した。作品蒐集ばかりでなく、模写の対象としても好まれた理由の一つとして考えられる。以上の調査研究の一部は、論文にまとめて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の計画は、18世紀後半期のレンブラント趣味の流行と、美術愛好家の作品制作、彼らの絵画技法への関心の関係を検証すること、また同時期の美術理論やサロン批評、美術愛好家の著作の読解と分析を進め、制作者の視点を想定した作品評価や趣味が醸成されていた可能性を探ることであった。 しかし、新型ウイルスをめぐる世界的な情勢の大きな変化により、予定していた海外調査は見合わせざるを得なかった。また、国内においても大学や研究所、図書館 、美術館の利用も制限されたため、訪問しての調査は縮小を余儀なくされた。しかしその一方で、この状況下ゆえに、国内外ともにオンラインによる一次史料や作品画像の公開が進み、文献資料の複写配送をはじめとしたサービスも利用させていただけたため、実地調査の不足分をある程度は補うことができた。また、海外の図書館や版画粗描室に所蔵される美術愛好家によるレンブラントの模写作品の実見調査は不可能となったものの、プリゴ(2018)によるカタログに収められた作品図版を使って分析を進めることはできた。 18世紀後半期のサロン評をはじめとする作品評価に、制作者としての視点が影響を与えた可能性の検証はやや不十分であるなど課題は残るが、上記「研究実績の概要」のように、おおむね当初の計画に沿って調査を行い、成果の一部を論文にまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度初めの現段階で、まだ新型ウイルス(COVID-19)の終息の見通しが立たないため、本年度も依然として海外調査が不可能な状況が続くことを想定しておかなければならない。そのため、引き続き、既に入手して手元にある資料を整理して見直すとともに、可能な限り、オンラインによる資料収集や作品画像の閲覧、資料配送サービス等を活用して、研究の推進に努めたい。 本年度は、さらに美術愛好家の著作やサロン評の分析を進めるとともに、素人の制作者としての美術愛好家の視点が、同時期の職業画家の作品に対する評価にも反映された可能性を検討したい。 これまでの期間中に行った調査研究の成果を総括すべく、できるだけ早い段階での論文執筆に努めたい。
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Causes of Carryover |
2020年1月から現在に至るまで、世界的規模で流行している新型ウィルス(COVID-19)の影響により、国内外の大学や研究所、図書館 、美術館の閉鎖・利用制限がなされ、当初の計画通りに実地調査を進めることが困難となった。とりわけ、政府と所属機関から渡航中止勧告が発出されて、海外調査が不可能となったことが大きく影響し、次年度使用額が生じた。
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