2018 Fiscal Year Research-status Report
『集神州三宝感通録』聖寺・瑞経録の美術史料論的研究
Project/Area Number |
18K00174
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
肥田 路美 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00318718)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 道宣 / 六朝時代 / 隋唐時代 / 仏教図像学 / 霊験説話 / 訳注 |
Outline of Annual Research Achievements |
『集神州三宝感通録』は、初唐時代の仏教史家である南山律師道宣(596~667)が仏法僧三宝のうえに現れた感通(霊験)を集成したものである。本研究課題では、四年間の計画で、本書の巻下に記された南北朝時代から唐初期に至る間の各地の仏寺に関わる記事十二条と、仏経そのものやその信奉・読誦にともなう感通譚三十八条を取り上げる。すなわち、『大正新脩大蔵経』巻五二所収のテキストを底本とし、当該個所について全文の訳と美術史の観点を重視した註解を可能な限り詳細におこなう。記事は一見、荒唐無稽な霊験説話であるが、現存する寺院建築遺構や仏教美術の遺例を著しく欠いた当該時期の実態や、当時の仏教信仰の事情をうかがう上で、非常に有益な資料である。 四年間の初年度にあたる18年度には、巻下の序文をはじめ、聖寺篇の前半六条を対象とする予定であった。しかし、序文、臨海天台山石梁聖寺条、東海蓬莱山聖寺条、抱罕臨河唐述谷仙寺条の訳と関係資料の蒐集のみにとどまった。また、本研究課題に先行する科研成果報告書として毎年刊行を継続してきた「美術史料として読む『集神州三宝感通録』―釈読と研究」を、作成することが叶わなかった。理由は、他の業務に忙殺されてエフォートを遂行できなかったところにある。 他方、2018年10月には、台湾の中央研究院歴史語言研究所において、中央研究院歴史語言研究所主題講座として、本研究課題に直接関係した口頭発表「唐代高僧的理想世界―道宣《集神州三宝感通録》分析」をおこない、手ごたえを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
18年度には論文三篇の執筆とともに、二冊の図書(『アジア仏教美術論集 東アジアⅡ隋・唐』と『古代寺院の芸術世界』)の責任編集として総論や論考の執筆、4篇の翻訳に予想以上の時間と労力を費やさざるを得なくなり、結果的に本研究課題に割ける時間が著しく少なくなってしまった。また、臨海天台山石梁聖寺条は東アジア仏教の一大拠点である天台山に関する条、抱罕臨河唐述谷仙寺条は現存する甘粛省炳霊寺石窟に関する条であることから、関係資料が多岐にわたり、かつ膨大であるため、注釈の執筆に非常に苦慮したことも、遅滞の一因である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題にかける時間を確保するために、抱えている仕事を整理するとともに、昨年は開催できなかった研究協力者たちとの研究会形式のミーティングを、毎週一回開催することで、コンスタントにノルマを推進する体制をつくる。また、昨年度に関係資料の蒐集はかなりの程度進めたので、それを踏まえるところからスタートできることは、今年度の利点である。こうした方策によって、今年度は所期の実績を達成することができると考えている。
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Causes of Carryover |
毎年の年度末に一年間の研究成果報告書を刊行する計画であったが、18年度にはそれが実行できなかったため、編集・印刷・製本費および関係研究機関への頒布に要する郵送料を、19年度に繰り越した。19年度においては、二年間分の成果を年度末に刊行することとするため、頁数増大により前年度の残額を計画的に使用できる見通しである。
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