2020 Fiscal Year Research-status Report
拓本技術を用いた植物画をめぐる美術と博物学の相関性に関する研究
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18K00175
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Research Institution | Gakushuin Women's College |
Principal Investigator |
今橋 理子 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (70266352)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 江戸時代絵画 / 博物図譜 / 印葉図 / ボタニカル・アート / 東西博物学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、博物図譜と芸術的絵画の境界上に位置する「印葉図」という絵画ジャンルを指摘し、日本絵画史への位置づけを試みるものである。従来科学史や植物学史では、印葉図は植物の制作方法として認識され、西洋では15世紀にはすでに存在していたことが知られているが、日本では19世紀以前には作例がないかのような言説が、これまで一般化してきた。しかし本研究を進めるなかで、18世紀には日本において印葉図は存在しており、博物学的な植物画としてはもちろんのこと、それを用いて一幅の鑑賞画としていたことがわかってきた。2020年度では当初、2019年度においてすでに所在を確認していた印葉図作品について、調査の実施を検討していたが、残念ながらコロナ感染症拡大による様々な規制により、計画通りに実施することが叶わなかった。そのため、2020年度中に執筆、発表する予定であった研究成果論文については見送らざるを得ないこととなった(2021年度5月現在もコロナ禍による影響は続いており、上記の実地調査をすぐにも実施することは難しいと思われる)。こうした状況に鑑み、2020年秋頃より本研究における研究手法に変化を加えている。すなわち、大幅に文献学的な調査量を増やすこととし、インターネットを駆使した情報収集に傾注している。その結果、従来の科学史や植物学史では研究対象とはされていないが、博物図の制作方法としては印葉図と通底する、他の生物を対象とした印葉図の存在を多数見出すととなった。つまり、印葉図のようないわゆる「拓本」的な絵画制作が、広く博物学的な記録手法としては、明治期以前には極めてメジャーなものとして認識されていたことが明らかである。日本美術史上における「印葉図法」の意義を、19世紀以後の写真技法の問題とも関連づけられる見通しとなったので、2021年度においては、まずはこれを論文としてまとめる方向で進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はコロナ禍により、当初予定していた作品調査は不可能な状態となった。そのため調査報告を中心に据えた研究論文の執筆と発表(『学習院女子大学紀要』第23号への掲載を予定)は、現状では完全ものとするには至らないと判断されたため、2020年度における論文発表は見送るという判断した。しかしながら、一方ではインターネットを駆使した新たな情報収集(特に欧米における関連分野に関する研究成果)、また文献資料の読解や分析などは順調に進み、多くの新たな知見を得る結果ともなった。その結果、日本における印葉図は植物のみならず、海産物の標本などにも使用されていた事例などを新たに見出すことなどができた。これは、広く「拓本」技術が博物画において応用されていた事実を知るものであり、改めてこれらの事実を、日本絵画史に位置付ける必要がある。もちろん直接的な作品調査は不可欠なものではあるが、本報告書をまとめている2021年5月現在の状況では、いまだその可能性が見えにくいため、可能な限りの文献調査による事実報告を、論文発表することを2021年度には計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、印葉図に関する美術史的な従来認識を、再考することを目的に進めている。2020年度は予定していた作品調査について、コロナ禍による緊急事態宣言発出に伴い、断念せざるを得ない状況であった。そして残念ながら、本報告書を書いている2021年5月現在もその状況は好転しておらず、作品調査をすぐにも実施することは難しい状況である。そのため現状では、より一層文献資料の収集に務めると同時に、特にインターネットを駆使して(ことに欧米の)印葉図関連の科学史研究や植物学研究分野での成果論文を収集、分析することに力を注いでいる。その一方で遅れている作品調査については、2021年夏~秋頃を予定している。そして2021年度内には、これらの作業をもとに得た新たな知見を紀要論文として発表(『学習院女子大学紀要』第24号、2022年3月発行予定)する予定である。なお、本研究課題は2022年3月末までであるが、その後も引き続き書き下ろしの論考を執筆し、それらを加えた形で一冊の著書としてまとめる方向で出版元との話し合いがまとまっており、2023年度中に刊行する方向で準備を進めている。
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Causes of Carryover |
2020年度中に実施する予定であった2件の作品調査が、コロナ感染症拡大の影響により延期せざるを得ない状況であったため、予算を執行することが叶わなかった。この理由により442,968円が2021年度に繰り越した形となっている。なお、これらの調査については、2021年夏季~秋季頃に実施する方向で、所蔵者との間で再調整を行っている。
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