2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K00180
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Research Institution | The Museum Yamato Bunkakan |
Principal Investigator |
泉 万里 公益財団法人大和文華館, その他部局等, 学芸部長 (60243135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古川 攝一 公益財団法人大和文華館, その他部局等, 学芸部員 (70463297)
都甲 さやか 公益財団法人大和文華館, その他部局等, 学芸部員 (80706755)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 景観 / 絵図 / 寺社境内 / 中世絵画 / 高野山図 |
Outline of Annual Research Achievements |
鎌倉時代以降の寺社境内の景観を描く絵図、縁起絵、寺社曼荼羅図を中心に、研究分担者古川攝一と調査を重ねた。具体的には各作例の所蔵先へ赴いて、撮影、調査、熟覧を行った。あわせて東北地方から九州まで、各図の景観を確認するための実地調査へおもむいた。その結果、野洲市歴史民俗博物館寄託の「三上古跡図」(御上神社絵図)や、池田市歴史民俗資料館所蔵「摂州細川荘絵図」など、美術史研究の視野にははいっていなかった興味深い絵図を発掘することに成功した。また、会津の「恵日寺絵図」については、当地にある恵日寺資料館の豊かな研究蓄積に実地で触れ、きわめて有益であった。現地踏査は、意外なほどに絵図に描かれている景観の印象が現代まで温存されていることに驚かされる連続であった。 1年間で熟覧できた作品点数は10件にのぼる。熟覧の成果を活かして東京藝術大学所蔵「高野山曼荼羅図」と堺市博物館所蔵「高野山図屏風」、そして八王子金剛院所蔵の「高野山図屏風」を対象とした論文(単著)「江戸時代の高野山図屏風(堺市博物館蔵)について」を『大和文華』134号に掲載した。 調査、熟覧した作品も含め、25件を、当初計画どおり、2019年度に研究の中間報告として開催する大和文華館の特別展「聖域の美 中世寺社境内の風景」に出陳できるはこびとなった。 さらに、画面の修正部分とのからみで、最近制作時期の見直しがはかられていた「泉涌寺絵図」についても精査し、近年の見直し議論が不十分なものであることを明らかにしたうえで、最初の紹介論文の時点での制作時期の推論のほうに蓋然性があると判断した。この件については、作品管理者とも情報を共有した。 また、当該研究費によって、近年出版があいついだ絵図を集めた重要な図版集および、荘園絵図研究の最新の図書などを購入、活用することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初、計画していた作例の熟覧を、ほぼ完遂した。とりわけ、美術史の視野の外にあった絵図類「三上古跡図」、「摂州細川荘絵図」、「高野山図屏風」(堺市博物館蔵)、「東山泉涌寺絵図」、「出雲神社絵図」(出雲大神宮蔵)の熟覧は有益で、従来の制作時期や制作の経緯の見直しが必要であることに気づかされた。それぞれの作例について、個別に論文を用意できるほどの、検討すべき内容は多い。そして、従来、中世史、歴史地理学、美術史の協業が必要であることは認識されているものの、なかなかうまくかみあっていないことも実感された。よってたつべき方法や、「絵」や「描かれている形」に対する距離感の取り方が異なっているため、同時に同じ作例を共同研究しても、その差は縮まないままに進んできたようにみえる。この状況を打開するためには、その場かぎりの共同研究よりも、それぞれがその研究領域における方法で研究を徹底することのほうが早道であると考える。そうした観点から、各作品についての個別論文を用意しており、そのうちの1本を、研究初年度の年度末刊行の『大和文華』134号掲載の論文(単著)「江戸時代の高野山図屏風(堺市博物館蔵)について」で公開できたことは、研究の順調な進展として評価されよう。 また、研究分担者古川攝一との、各地の所蔵先へ赴いての調査も順調に進めることができた。細部スライドの撮影や、作品の状態など確認できたことは多い。もう一人の分担者都甲さやかについては「泉涌寺絵図」に関連し、中国の宋・金の寺社景観図の文献調査や、拓本資料調査を担当。その成果の一部は、「泉涌寺絵図」研究に反映される予定である。 いっぽう、当初計画どおりすすまなかったのは、祖師像と寺社景観を組み合わせる寺社境内図の調査である。これは、所蔵先から作品の保存の観点から熟覧等の許可が得られなかったことに起因する。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度(2018)に実施した調査結果の中間とりまとめを2019年度に行う。具体的には、当初計画どおり、2019年度秋に大和文華館で開催する特別展に、本研究の成果を反映させる。本研究にとって展覧会開催の意義は、以下の3つである。ひとつは、個別に熟覧、検討を重ねてきた作例のうち、20件ちかくを陳列することで同時に比較できる機会を設けることである。絵の質感の異同や、継承されるモチーフを確認することができるためにこのうえなく有益な機会となる。そこで見直しや設定した枠組みの改変が要求されることもあるだろう。ふたつめは、他の研究者の目を通す機会となることである。美術史だけでなく、隣接領域の研究者の観覧をあおぎ、批判を受ける場として重要な機会になると予測する。そして、最後に、類似作例に関するさらなる情報収集の場となることも予想される。まだまださまざまなところに眠っている中世の寺社境内表現をともなう絵画は多いと予想する。そうした情報が、この展覧会を機に寄せられること願う。 2020年度は、前半2年間の成果を吟味しつつ。2018年度にかなわなかった作品調査を続行するいっぽうで、2021年度の最終成果報告書の刊行を目指して準備を進める。 作品調査としては、具体的には九州の「玉垂宮縁起」に類する、八幡縁起と境内図とを組み合わせる作例の熟覧調査、および、盛岡の「善光寺曼荼羅」、平泉の「中尊寺縁起絵」およびそれによく似た図様をもつ静岡市芹沢美術館所蔵の「中尊寺縁起絵屏風」などを予定している。 2020年度末には、最終研究成果報告書のおよその構成をととのえ、必要な描き起こし図の作成などの作業も進めて、2021年度には、余裕をもって研究成果報告書の作成に取り組めるよう準備を進める。
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Causes of Carryover |
物品購入などにおける端数が生じ、200円程度が残金となる。ただし、次年度の助成金要求では、1万円以下の残金なので反映されていない。
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Research Products
(1 results)