2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00180
|
Research Institution | The Museum Yamato Bunkakan |
Principal Investigator |
泉 万里 公益財団法人大和文華館, その他部局等, 学芸部長 (60243135)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古川 攝一 公益財団法人大和文華館, その他部局等, 学芸部員 (70463297)
都甲 さやか 公益財団法人大和文華館, その他部局等, 学芸部員 (80706755)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 中世絵画 / 寺社境内図 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、昨年の資料調査成果をまとめ、研究の中間報告として所属する大和文華館にて特別展「聖域の美 -中世寺社境内の風景」を開催した。会期は2019年10月5日~11月17日とし、25件の作品を借用し、当館館蔵品も含めて32件を展示した。それに付随して展覧会図録を作成、作品解説を研究分担者古川と分担執筆をし、さらに泉が「総論 中世寺社境内の風景」、「付論 高野山の風景」という2本の論文を執筆した。図版は所蔵者提供のフィルムやデータを活用したが、そのほかに、細部の部分図については、昨年度の調査で古川と泉が撮影した画像データを最大限いかして、わかりやすく、興味を喚起できる図版作りを目指した。展覧会入館者数は6000人弱と、当館の特別展としては及第点といえる観客を集めることができ、さらに1000部作成した図録は会期中に完売できた。ざっとみつもっても、6人に1人が購入してくれた計算になり、その内容の充実が評価されたものと考えている。 展覧会終了後、丹波の出雲大神宮を描く「出雲神社絵図」と、御上神社を描く「三上古跡図」をはじめとする、中世の絵図については作品紹介論文を執筆し、2年後の報告書刊行の準備を進めている。 また、展覧会会期中は、作品所蔵者をはじめ、中世絵画史研究者との有益な意見交換もはたすことができた。制作時期について、通説を変更する見解とともに、陳列した「東山泉涌寺絵図」については、異論なく受け入れられ、その位置付けをもって、京都市の指定文化財(古文書)に指定することができたことも、研究実績の社会還元のひとつとして報告しておきたい。 さらに、中国の寺社絵図についても、展覧会会期中に情報提供をえたので、それを反映する形で「東山泉涌寺絵図」についての論考執筆した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた展覧会を無事に開催することができた。 また、展覧会をとおして、多くの中世絵画研究者の意見を聴取することができた。とりわけ、美術史の領域では知られていなかった「摂州細川荘絵図」に多くの関心を集めることができた点は特筆される成果といえよう。それとともに、本図の研究を継続して進めることの意義を確認でき、研究の進捗をより確実なものとする見通しを立てることができた。「摂州細川荘絵図」については、予定していた現地踏査が未了なので次年度に実行する予定である。また、「出雲神社絵図」についても、展覧会の作品解説執筆後に、偽文書と疑われていた文書が、南北朝期に発生した出雲神社の支配地をめぐる相論に関連する史料として、再三引用されていることを確かめた。これによって、この絵図の成立や真偽の信憑性に問題があるとされてきた従来の見方を改める必要があることに気づき、その旨を原稿にまとめ、学術雑誌に投稿ずみである。 さらに「慧日寺絵図」の先行研究で引用されていた郷土史の資料類を福島県立図書館にて確認する作業も完了。さまざまな引用資料類は、そのほとんどが江戸時代をさかのぼるものではないことが判明。そうであるならば、作品そのものの、絵画史的検討の重要性がいっそう大きくなると考える。 「東山泉涌律寺図」についても、中国の版本資料を探索中であり、これに類する鎌倉や京都の禅宗寺院の絵図類と、中国の寺院境内図とのつながりをあぶり出せる見通しがもてるようになった。 最終年度の報告書にむけ、さらに調査を深化させる。
|
Strategy for Future Research Activity |
展覧会に出陳した作品のうち、「出雲神社絵図」、「東山泉涌律寺図」、「慧日寺絵図」、「摂州細川荘絵図」、「三上古跡図」、「報恩律寺七堂図」の6点について、展覧会後にえられた情報も含め精査し、それぞれ成稿を年内にめざす。 そのいっぽうで、重要な作品ながら、調査が未了のままとなっている、九州の絵図類について、九州国立博物館等の協力をあおぎながら実行する。 研究分担者があげつつある成果を統合し、最終年度の報告書作成の準備を確実に進めておきたい。 ただし、現在の感染症蔓延の影響により、各地の図書館、博物館、美術館は閉館となっており、調査依頼などを含め、研究の推進にも影響をうけざるをえない。できることから確実に丁寧に仕上げていくことを心がける。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額として1163円が生じた理由は、物品費および旅費で使用した額の残金である。
|