2019 Fiscal Year Research-status Report

尻の下のイメージ：ドイツにおける聖職者席下部彫刻ミゼリコルディアの総合的研究

Research Project

Project/Area Number	18K00182
Research Institution	Yamagata University
Principal Investigator	元木幸一山形大学, 人文社会科学部, 名誉教授 (10125669)
Project Period (FY)	2018-04-01 – 2021-03-31
Keywords	ミゼリコルディア / 内陣席 / 低ライン地方 / ウルム周辺 / イェルク・ジュルリン / アインベック / ブラウボイレン / メミンゲン
Outline of Annual Research Achievements	（１）低ライン地方の内陣席ミゼリコルディアの形式、図像内容、注文主などをエッメリヒ聖マルティニ聖堂を中心として考察し、『山形大学大学院社会文化システム研究科紀要』第16号に発表した。それによって低ライン地方内陣席の特徴として、諺による図像表現の多さや聖書表現の希少性などの世俗性、ミゼリコルディアに仮面表現が皆無であること、あるいはきわめて少ないこと、オランダのユトレヒト教区との密接な関係などが解明された。（２）低ライン地方以外のドイツ各地のミゼリコルディアなど内陣席の調査を実施した。具体的には、シュトゥットガルト周辺のヘレンベルク教区聖堂、チュービンゲン教区聖堂、ウルム周辺のウルム大聖堂、ブラウボイレン修道院附属聖堂、メミンゲン聖マルティンス聖堂、ヴュルツブルク周辺のヴュルツブルク大聖堂、マイトブロン修道院附属聖アフラ聖堂、アインベック聖アレクサンドリ聖堂、ブラウンシュヴァイク大聖堂などを調査した。その結果シュトゥットガルトとウルム周辺では、15世紀後半から16世紀初期にかけて、ウルムのイェルク・ジュルリン（父）の影響がきわめて大きく、その息子などがミゼリコルディアのみならず、肘掛け、側板、背板などで共通したモティーフでの構成という点で類似した内陣席を作り上げていることが判明した。（３）アインベック聖アレクサンドリ聖堂は1288というドイツ最古の年記を有し、ニーダーザクセン地方特有のユニークな内陣席を設置した。その特徴は仮面表現、葉状装飾などで低ライン地方ともウルム周辺ともまったく異なるユニークなものであることが判明した。（４）これらの結果、ドイツでのミゼリコルディアは、アインベック、ケルン－マクデブルク、低ライン地方、ウルム周辺など主に４つの地域に分類されるように思われる。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned. Reason ドイツにおける内陣席の実地調査はほぼ予定通り終了した。まず低ライン地方のミゼリコルディアについては、エッメリヒ聖マルティニ聖堂の内陣装飾に関して論文を発表した。次に実地調査によって、ウルム周辺の聖堂でイェルク・ジュルリーン（父）に似たモティーフ、テーマ、形式などの内陣席をいくつか発見し、この芸術家がこの地域で如何に多大な影響力を及ぼしていたかを解明した。特に、これらの内陣席では聖書的イメージだけでなく、人文主義的なイメージもいくつか見つかり、ウルム周辺の内陣席の特徴を分析できる。それは南ドイツにおけるルネサンス的傾向を示唆するものと考えられる。さらにドイツ最古の年記を有するアインベック聖アレクサンドリ聖堂では、ミゼリコルディア、肘掛け、側板、背板などで、葉状装飾付き仮面というユニークなモティーフの成立が注目できる。この文様等の分析から、教会内装飾がそれぞれの場所でいかに異なる意味を有するかを分析するための足がかりとなろう。また、このアインベックの様々な装飾表現の関係から、内陣席全体の部位ごとの関係を解明できるのではないかと考えられる。これら多数のミゼリコルディアの調査から、13世紀末のアインベック、14世紀のケルン－マクデブルク、15世紀後半の低ライン地方、15世紀末から16世紀初頭のウルム周辺それぞれの特徴を分析し、相互関係を解明することができる。
Strategy for Future Research Activity	（１）ドイツ最古の年記を有するアインベック聖アレクサンドリ聖堂のミゼリコルディアの細部モティーフを分析し、さらに、肘掛け、側板、背板などの諸モティーフを比較検討する。そして、その結果を論文として発表する。（２）ウルム周辺のウルム大聖堂を中心として、ヘレンベルク、チュービンゲン、ブラウボイレン、メミンゲンなど、諸聖堂の類似性や独自性を分析し、それぞれの関連を推測する。（３）13世紀のアインベック、14世紀のケルンーマクデブルク、15世紀後半の低ライン地方、15世紀末～16世紀のウルム周辺などをドイツにおけるミゼリコルディアの主要な4地域とし、その特徴を比較分析し、その相互関係を解明する。（４）内陣席におけるミゼリコルディア、肘掛け装飾、側板装飾、背板装飾という各部位の相互関係や東西南北配置の意味を解明する。その上で、教会全体の装飾における内陣席の意味や位置、そしてミゼリコルディアの機能、意味等を解明する。（５）それらをまとめて報告書を作成する。
Remarks	『山形大学大学院社会文化システム研究科紀要』掲載の論文において、低ライン地方エッメリヒ聖マルティニ聖堂の内陣席の形式的特徴、図像的特徴などを分析した。