2018 Fiscal Year Research-status Report
Jan Brueghel the Elder as a Storyteller
Project/Area Number |
18K00186
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平川 佳世 京都大学, 文学研究科, 教授 (10340762)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 美術史 / ナラトロジー / ブリューゲル / 風景画 / 動物画 / 古画学習 / 模写 / 地獄絵 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、花の静物画や風景画、動物画の名手として知られるヤン・ブリューゲル(父)の描いた物語画を包括的に考察することで、大ブリューゲルの伝統を継承しルーベンスと同時代を生きた画家独自の物語叙述法を解明することにある。初年度にあたる平成30年度は、ヤンの描いた物語画のデータ・ベース作成に着手するとともに、初期の古画学習について調査研究を行った。 ヤンの父である大ブリューゲル、即ち、ピーテル・ブリューゲル(父)は、聖書や神話、民間伝承、諺などを題材に、ファン・エイク以来のネーデルラントの造形伝統を統合し、重層的な意味内容を含蓄する優れた物語表現を実現した。しかし、ピーテルはヤンが幼少の折に死去したため、ヤンは父親から画家教育を直接的には受けていない。加えて、父親の遺した絵画制作資料の多くは長男のピーテル・ブリューゲル(子)が相続したこともあり、ヤンは、早い時期から父親とは一線を画す物語画を志向した。その際に参照されたのが、デューラーやラファエロなど、父ピーテル以前の巨匠達の作品である。 1590年代前半のイタリア滞在時には、ラファエロのフレスコ壁画などに加え、古典文学や同時代の芸術理論を学習することで、イタリア人愛好家の美的要請に応じた数々の地獄絵を描き、評価を得るに至った。一方、アントウェルペン画家組合に親方登録を果たした翌年の1598年に描かれた《カルヴァリオの丘》(ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク蔵)では、ネーデルラントで著名だったデューラー素描を援用することで、父の同主題作品を上回る複雑な物語描写と、磔刑に処されるイエスと気絶する聖母に鑑者の視点を導く祈念画的機能を巧みに両立させることに成功している。 このように、ヤンは、初期の段階からすでに、ルネサンスの巨匠の作品や芸術理論を丹念に学習することにより、父親の偉業と向き合いつつも、独自の物語画を探求したのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究実績で述べたように、初年度にあたる平成30年度は、ヤン・ブリューゲル(父)の描いた物語画のデータベース作成に着手するとともに、ヤンの初期の画業を、古画学習の観点から考察することを計画していた。上述の通り、研究は計画通り行われ、一定の成果を得るに至っている。 また、ヤン・ブリューゲル(父)に関しては、近年、多角的な視点から新たな研究が行われている(Elizabeth Alice Honig, Jan Brueghel and the Senses of Scale, 2016等)。本研究計画遂行に際しては、こうした国内外の研究動向に十分に留意しつつ、必要に応じて研究者間の意見交換を行いながら、より、効果的な調査研究および時機を得た成果発表に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、当初の研究計画に基づき、2年次に当たる平成31年度/令和1年度には、ヘンドリック・ファン・バーレンやルーベンスといった人物画家たちとの共同制作の問題について調査研究を行う。 加えて、令和1年6月に開催される国際シンポジウム「自然は考えるのか?―自然の知をめぐる日仏間の学際的対話」において、ヤン・ブリューゲル(父)のキリスト教主題の物語画における自然描写、あるいは、キリスト教主題を点景に添えた風景画についての研究発表を行うこととなり、急遽、この種の物語画の特殊な構造について、集中調査に着手した。本調査は最終年次の研究の予備研究として、研究計画全体の順調な推進に寄与するものと考える。
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Causes of Carryover |
本年度は、当該研究に係わる展覧会が国内外で数多く開催されたため、作品の実見および最新の研究動向の収集をすべく、当初の予定を上回る旅費が必要となった。そのため、11月に30万円の前倒し支払請求を行い、これが認められた。これを受けて、年度末には、次年度の十分な予算確保に配慮して、物品費などの面で支出を抑制したため、結果として、約4万円の次年度使用額が生じたのである。しかし、前述の通り、本予算は元来次年度の前倒予算であるため、次年度の使用計画に大きな変更は生じない。
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