2020 Fiscal Year Research-status Report
日本と韓国における国際美術展のグランド・ツアー・インパクトをめぐる基礎的研究
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18K00188
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
藤川 哲 山口大学, 人文学部, 教授 (50346540)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国際美術展 / グランド・ツアー / ドクメンタ / ヴェネツィア・ビエンナーレ / ミュンスター彫刻プロジェクト |
Outline of Annual Research Achievements |
1997年、2007年、2017年と3回現象した国際美術展のグランド・ツアーについて、非欧米圏に与えたインパクトの広がりを解明することが本研究の目的である。 グランド・ツアーは、元来、17-18世紀のイギリス貴族によるヨーロッパ大陸の文化を学ぶための大旅行を指したが、1997年以降、ヴェネツィア・ビエンナーレ、ドクメンタ、ミュンスター彫刻プロジェクトと、バーゼル・アートフェアをめぐることを「グランド・ツアー」と呼ぶようになった。多くの美術記者や批評家、キュレーター、アーティストがこれらを周遊し、美術雑誌にも特集記事が組まれている。 本年度は、97年、2007年、17年に刊行された美術雑誌『Kunstforum』の関連記事のOCRスキャンを行い、ドイツ語から英語への機械翻訳を行った。今後、これらのテキストを読み込み、分析を進める。 また、県外・海外への出張等が行えなかったことから、郷土で活躍した洋画家・香月泰男が1950年代にサンパウロ・ビエンナーレやカーネギー・インターナショナルに出品している事実に着目して、関連情報をまとめ、研究ノートを執筆、『山口大学哲学研究』第28巻に発表した。 そのほか、文化庁主催の連続ウェビナー「コロナ以降の現代アートとそのエコロジー 第2回 コロナ以降の国際展とは?」にパネラーとして参加し、ビエンナーレ史の観点から提言を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、現有資料のうち、美術雑誌『Kunstforum』の1997年138号(ドクメンタX特集、全58頁)、2007年185号(ドクメンタ12、ヴェネツィア・ビエンナーレ、ミュンスター彫刻プロジェクト速報、全3頁)、187号(ドクメンタ12、ミュンスター彫刻プロジェクト特集、全117頁)、188号(ヴェネツィア・ビエンナーレ特集、全169頁)、そして2017年248号(ドクメンタ14特集、全83頁)についてOCR読み取りとドイツ語から英語への機械翻訳作業を完了することができた。しかしながら、それらの読み込みと論点抽出までは至ることができなかった。1つ1つの記事を精読し、キーワードをカード化し、関連づけ、整理する作業には一定期間、集中した時間が必要だが、7月のOCR読み取り、8月の機械翻訳以降は、学内外の諸業務に追われて、それらの研究に立ち戻ることができなかった。 代わりに、郷土の洋画家・香月泰男に関しては、サンパウロ・ビエンナーレやカーネギー・インターナショナルへの出品履歴があることが分かったことから、10月から1月にかけて、後期の講義と絡めて散発的な調査を積み上げ、「〈研究ノート〉香月泰男の〈シベリア・シリーズ〉と国際美術展」(全16ページ、査読無し)としてまとめて大学紀要『山口大学哲学研究』第28巻に発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現有の資料の整理と論点の抽出といった基礎的な分析作業をさらに推進する。具体的には、レビュー記事執筆者のリスト化に基づく「グランド・ツアー」体験者一覧の作成である。また、レビュー記事の論点抽出に基づく「グランド・ツアー・インパクト」の解明作業については、前年度に見定めた、18-19世紀の新古典主義に相当する「規範的意義」を持ち得ているか、といった観点で進める。その際、特にヴェネツィア・ビエンナーレの金獅子賞受賞作品に着目して、直接的「影響」と持続的「残響」の事例を収集し、比較考察を行う。 日韓の研究者やアーティストを招聘しての国際シンポジウムの実現を目標に掲げていたが、準備不足、努力不足と現下のコロナ禍によって実現は難しい。交付予定額のうち、該当部分は返納を基本路線とし、状況に応じ、実現可能な範囲で研究計画を形にしていくことを今後の推進方策としたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた主たる理由は、遠隔授業等の対応で研究に集中する時間を確保できなかったことにある。物品費については、コロナ禍で出張が難しい分、校費による支出を優先させたことも要因の1つである。旅費は、年間を通して国内・海外の出張や研究者招聘が困難な状況が続き、支出できなかった。謝金については、幸いにもドイツ語を得意とする学外協力者を得ることができ、美術雑誌『Kunstforum』のOCR読み取り作業を業者に発注するより大幅に安価で完了することができたが(7月)、年度当初に計画していた学生を雇用しての資料整理は、キャンパスへの立ち入り制限が続いたこと、学生たちにも時間的余裕がなかったことから見送った。 今後の使用計画について、国内におけるワクチン接種の状況やヨーロッパの感染状況に照らして支出困難と認識しており、返納を予定している。本研究課題については、初年度の準備不足(他の研究課題との期間重複)、2年度目の業務多忙による研究遅延、最終年度のコロナ禍など、私のスケジュール管理能力不足と予見できなかった要因により、十分な研究成果が出せない状況が続いていることに、心苦しい思いをしている。研究期間延長を有効活用し、謝金の支出等を中心に、可能な範囲で研究を前進さる。
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