2021 Fiscal Year Research-status Report
ニコラ・プッサンの視覚論 - 近世フランスにおける「タブロー」の成立と展開
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18K00192
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
望月 典子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (40449020)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ニコラ・プッサン / タブロー / 歴史画 / 王立絵画彫刻アカデミー / 視覚論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世フランスにおける「タブロー」―― 特定の機能や場所から切り離され、枠づけられることで自律した存在となる絵画 ―― の成立と展開を「タブローとしての歴史画」の観点から問い直す試みである。とりわけ、タブローの成立に重要な役割を果たした画家ニコラ・プッサンの造形手法とそこで作動する視覚の論理(枠と視線と視距離が関わる)、および王立絵画彫刻アカデミーでの、彼のタブローをモデルとした歴史画の理論化に着目することで、西洋に特有の絵画形態である「タブロー」研究に新たな視点を提供することを目的としている。 本年度は、プッサンの中型タブローの造形システムの再構成を目指して、昨年度に続き、プッサンの書簡および同時代の伝記に書かれた画家の制作手法と理論への関心についてのテキスト分析、個別作品分析を行った。プッサンが、ラファエロの構想によるシスティーナ礼拝堂用タピスリーという大型画面をいかに受容して中型タブローへと変換しているのかを複数の作品について分析し、論文として発表した。さらにプッサンの造形システムが内包する多様性を探るため、後年、プッサンのタブローを基に織られたタピスリーを具体例として、今度はアカデミーが、プッサンの中型タブローをいかに大型装飾場面へと改変しているかについて検討を進めた。またアカデミー講演会録の精読とアカデミーにおける歴史画 (物語画) の理論構築を跡づける作業を続行しており、1667年のアカデミー講演会で取り上げられたプッサン作《盲人を癒すキリスト》を講演会録や同時代史料に依拠しつつ詳細に分析し、中型タブローの鑑賞形態と重層的な意味の創出の関係を考察した(論文掲載決定)。今年度も新型コロナ感染症の状況から、国外調査を実施できなかったため、研究期間を一年延長し、タピスリーや装飾画を中心に現地調査を行った上で、プッサンの視覚論についての統括的な報告書を作成する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度まで著作の出版等を通して、ほぼ計画通り進捗してきた。本年度はまず、タブローとタピスリーの関係について検討した。タピスリーは、歴史主題を表す装飾として17世紀フランスにおいて多用され、可搬性という点ではタブローと共通するが、その規模と素材に大きな相違があり、両者の比較は、中型タブローの特質を探りプッサンの視覚論を考察する上で重要な観点である。新型コロナウィルス感染症の状況から、国外調査は実施できなかったが、一次資料を含む文献資料、web上で閲覧可能なイメージ資料を用いて、ラファエロのシスティーナ礼拝堂用タピスリーの原寸大下絵とプッサンの複数のタブローの比較分析を行い、論文を発表した。その過程で、プッサンに委嘱されるも画家の生前は実現しなかったタピスリー計画についての調査も行った。またプッサンの宗教画《盲人を癒すキリスト》に詳細な検討を加えた(論文掲載決定)。この作品はアカデミーの講演会で取り上げられ、歴史画の理論構築に深く関わり、ラファエロのタピスリー下絵とも密接に結び付くものである。また、同時期のプッサンの別の宗教画についても、彼の視覚の論理を検証する論文が完成している。さらにタピスリーとの関係では、後年実現した、モーセを主題するプッサンのタブローに基づくタピスリー製作について、文献資料の調査を進めた。そこではタブローをタピスリー用の大型画面に拡大するにあたり、多くの改変が加えられており、下敷となっているタブローと織り上がったタピスリーとの比較により、アカデミーがプッサンのタブローから何を学び、何を捨象したのかを浮き彫りにすることが可能である。ただし、この問題については、作品のスケールや素材が大きく関わるため、現地での作品調査が必要となる。以上のように、全体としてはおおむね予定どおり進展しているが、国外調査が実施できなかったことから部分的にやや遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ感染症の状況から、2年間続けて国外調査が実施できなかった。プッサンの中型タブローの造形システムの再構成という、本研究課題の目的において、タピスリーや室内装飾画との比較は必須であり、タブローと装飾という機能と形態の違いや、素材および画面のスケールの違い等の側面をより精緻に分析する必要がある。これまで、文書資料や写真、web上の画像を用いて研究を進めてきたが、やはりタピスリーや室内装飾 (ヴェルサイユ宮の装飾など) は、大型であることや視点の位置の移動によって視覚効果に違いが生じることなどから、タブロー以上に写真だけでは全体を把握することが困難である。またプッサンのタプローの特質がプッサンの視覚論に深く根差している以上、タブローを実際に目の前にして作品の分析をしなければ、その本質をつかむことはできない。したがって、本研究の総括的な報告書を作成するには、現地調査が不可欠であり、研究期間を1年延長した次年度は、可能な限り国外調査を実施したい。調査先として、フランス国内(パリ、ヴェルサイユ、フォンテーヌブローなど)および(可能であれば)ローマを予定している。また、プッサンの重要な作品を所蔵しているリヨン美術館では、2022年11月から2023年3月にかけて、「Poussin et l'amour」展が開催され、ピカソにおけるプッサンの位置づけを探る特別展も予定されている。プッサンのタブロー研究にとって資するところの大きい展覧会であるため、本展覧会およびリヨン美術館所蔵作品の調査を実施する。ただし、新型コロナ感染症の状況により、海外渡航が困難な場合には、文献調査による研究を継続する。最終的にはこれまでの成果を国外調査によって補完しつつ、統括的な報告書を作成する。同時に個別研究については随時、論文等での発表を継続する。
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Causes of Carryover |
本研究課題の当初の計画では、各年度ごとに国外調査を行う予定であったが、新型コロナ感染症の蔓延により、2年間実施することができず、旅費等の次年度使用額が生じた。そのため、補助事業を一年延長し、国外での作品調査を行う。可能であれば次年度中に時期をずらして2回、8月末から9月と2022年11月以降(リヨン美術館での展覧会開催に合わせる)、あるいはやや長めの期間で11月以降に1回実施予定である。具体的な実施計画については、対象となる施設での調査の可否を確認しながら決定していきたい。2回実施する場合は、40万×2回で使用し、残額は図書購入費、論文の欧文校閲費、その他の消耗品にあてる。
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Research Products
(3 results)