2018 Fiscal Year Research-status Report
藤島武二の活動からみる官展の画家の社会的な役割と美術制度の研究
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18K00193
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
児島 薫 実践女子大学, 文学部, 教授 (40195714)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 藤島武二 / 『明星』 / 美人画 / 岡田三郎助 / 美人コンテスト / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
藤島武二の遺品のノートの中に、海外のポスターや本、雑誌の表紙などを小さな図に写した縮図帖がある。図は一頁のなかに多数描き込まれており、アール・ヌーボー様式のものが多い。今年度は①それら縮図の元になったものが何かを探した。②それによって縮図帖の制作年、原画の持ち主を推定した。③縮図帖のもとになった作品から藤島がアール・ヌーボースタイルについて学んだことがわかり、その成果が藤島が描いた雑誌『明星』のイラストにどのように反映したかについて比較検討をおこなった。雑誌『明星』は復刻版で調査することが可能だが、今年度貴重なオリジナル雑誌を入手することができた。この成果および、藤島の資料から明らかにした年譜的な事実は、児島薫『女性像が映す「日本」-合わせ鏡の中の自画像』(ブリュッケ、2019年4月)のなかの「4章、藤島武二」で発表した。 また藤島と当時双璧を成した洋画家岡田三郎助については、岡田が明治末に描いた新聞附録絵と同時期におこなわれた美人コンテストの関わりについて、改めて詳しい資料を精査した。その内容は、ポーラ美術館「モダン美人誕生-岡田三郎輔と近代のよそおい」展のカタログに寄稿した児島論文「女性像が示す近代、大衆、ニッポン」のなかで発表した。 また東京美術学校で藤島、岡田、和田英作に学んだ画家安藤東一郎が韓国で描いた天井画《飛天》の下絵があることがわかり、ご遺族のもとで調査をおこなった。藤島、岡田、和田が描いた天女の図像との関連を考えさせられるものであるが、今年度は下絵の概要を明治美術学会誌『近代画説』26号において報告した。 また女性画家については翌年度以降の課題としていたが、岡田三郎助の女子洋画研究所でのいわさきちひろ、栗原玉葉と官展の関わり、女子美術学校での学習について研究し論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
藤島武二のスケッチブック、ノートから年譜的事実の洗い出し作業の途中であるが、洋画学習を始めた時期、複数の師のもとでの学習の経緯を整理し、現在までの成果を自著『女性像が映す「日本」』のなかで述べた。スケッチブックのうち初期のものから調査を進め、『明星』イラストを描いていた1905年からの留学以前の学習状況について新しい見解を提示することができ、前述の自著のなかで述べた。雑誌『明星』についてはオリジナルの雑誌を入手することができ、刷りの状況についても比較精査することができた。 またポーラ美術館での岡田三郎助を中心とする洋画展ではカタログ執筆で協力し、黒田清輝、藤島武二作品などを比較調査することができた。 群馬県立近代美術館「湯浅一郎」展では、藤島と山本芳翠のもとで兄弟弟子であった湯浅一郎の作品調査をおこなった。湯浅がスペイン留学中にフランス、イタリアに留学した藤島と会い、ともにヨーロッパ各地を旅行した際の絵はがきを見ることができ、藤島の現地の旅程を確認することができた。児島虎次郎についての調査は夏期の水害の影響が心配されたため翌年に延期した。一方、当初未知であった東京美術学校で学んだ安藤東一郎の資料の所在がわかり、調査を継続している。安藤は日本統治時代の韓国で美術館の天井画《飛天》を描いており、日本の洋画家による韓国での活動について新たな研究の手がかりを得た。この成果も学会誌に発表した。 岡田三郎助が教えた女性画家については2年目の課題であったが、弟子有馬さとえについては女性雑誌の記事にもとづく調査を始めた。最後の時期の弟子、いわさきちひろについても資料にあたり調査結果を発表できた。女性画家と官展の関係については日本画家栗原玉葉についても論文「女性画家としての栗原玉葉」をまとめた。 以上初年度としては予定以上の成果をあげ、単著および学会誌、展覧会カタログに発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
藤島武二のスケッチブック、ノートは大量にあるため、引き続きその内容の分析をおこなう。今年度は特に留学時代のスケッチを精査する。後年それらから新聞挿絵を制作していたことについて青木茂氏からご教示をいただいたため、これらと対応関係を調査する。年譜的事実についても留学以後の足取りに関する資料を抽出し、これまで明らかでなかった部分について事実関係を整理する。まだ未見の文献もあるため、図書館、古書の探求を継続する。また藤島が弟子たちに宛てた書簡についても引き続き所在の有無を探し、調査を継続する。 日本政府による植民地支配のもとに日本人画家たちが相次いで「朝鮮」に渡り、現地で古美術に関心を寄せたが、その先鞭を付けたのはいち早く朝鮮出張を命ぜられた藤島であった。以後、総督府壁画を和田三造が描き、朝鮮ホテル壁画を山下新太郎ら東京美術学校出身者たちが手がける。安藤東一郎と田中良による朝鮮物産共進会天井画もこの系譜に位置するものであり、韓国側からも報告書が出されたところである。新資料である安藤東一郎の朝鮮旅行スケッチを手がかりにこのような朝鮮での官学出身画家たちの活動についても考察を進める。 文展から二科分裂騒動のなかでの藤島や周囲の動向については、当時文展の審査委員長であった森鴎外関連資料を用いて検証する。文京区立森鴎外記念館でも調査をおこなう。 女性画家については、今年度は有馬さとえの作品の修復を修復家に依頼しており、修理過程で明らかになる技法材料に関する情報を取り入れ、師である岡田三郎助の技法との比較検討する。
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Research Products
(6 results)