2019 Fiscal Year Research-status Report
藤島武二の活動からみる官展の画家の社会的な役割と美術制度の研究
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18K00193
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
児島 薫 実践女子大学, 文学部, 教授 (40195714)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 藤島武二 / 雑誌 明星 / 画稿帖 / アルフォンス・ミュシャ / 台湾 / 女性画家 / 有馬さとえ |
Outline of Annual Research Achievements |
①昨年度も藤島武二の《画稿帖》関連の調査をおこなったが、本年度はイギリスの雑誌「The Studio」の復刻版と付き合わせることで、多くの図が、そこに掲載された各種のデザイン・コンペティション応募作の写真などを写していたことを突き止めた。これについては学科紀要『実践女子大学美學美術史學』に論文をまとめた。ただし《画稿帖》の頁数が多いため、一度に掲載しきれず、後半は次号に投稿することとした。 ②台湾の財団法人福禄文化基金会の招聘により、台北でおこなわれた国立中央研究院の主催したシンポジウム「近現代東アジア美術史の新資料と新研究」に参加した。新資料として、藤島武二のスケッチブックのなかで、台湾美術展覧会の審査などの機会に台湾旅行をおこなった際に描いた水彩画などを紹介した。あわせて藤島の「東洋」への考えについて考察した発表をおこなった。また台北のコレクターの所蔵する台湾美術展時代の日本の官展画家の作品を調査した。 ③群馬県立近代美術館が所蔵する湯浅一郎資料を調査した。湯浅は、藤島が山本芳翠の画塾生巧館で学んだ時代の同窓であり、藤島が留学中、一緒にヨーロッパ各地を回った。湯浅の資料から藤島の行動を確認した。 ④藤島と洋画界の双璧をなした岡田三郎助が女子洋画研究所を開く以前から岡田に師事し帝展で女性初特選を果たした有馬さとえについて、本学に寄贈していただいた作品の展示をおこない、またご遺族の方々にもインタビューをおこなった。その解説と修理報告を『香雪記念資料館館報』に寄稿した。日本の女性画家が置かれた位置については国立西洋美術館で「フィンランドの女性画家たち」展に際して開かれたシンポジウムで発表し、同館の紀要に投稿した。 ⑤東京都公文書館で藤島の出品に関する調査をふくめ、博覧会出品関連の文書を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①藤島武二のスケッチブックなどの資料の調査と公開について 雑誌『明星』のカットや表紙を描いた時代のイメージ・ソースとみられる《画稿帖》について精査し、その画像のほぼ半分を「『明星』時代の藤島武二ーミュシャとの関わりと《画稿帖》についてー」『実践女子大学美學美術史學』34号(2020年3月、p.81-97)のなかで掲載した。 ②藤島が朝鮮、台湾で見いだした画題とその周囲への波及について 台湾での発表「藤島武二が構想した「東アジア」的な表象について」(2019年12月6日)でも、台湾で描いた水彩風景などを示し、藤島が台湾で見いだした主題について発表をおこなった。また翻訳論文「藤島武二的中國服飾女性像」『藝術學研究』国立中央大学藝術學研究所(2019年12月、第25期、p.235-263)では藤島が帝展で発表した一連の作品とその役割について論じた。 ③官展の画家の社会的な役割について 官展と女性画家の問題については国際シンポジウム「近代の女性芸術家たち:フィンランドと日本」(2019年6月21日、国立西洋美術館)で発表し「近代日本の女性画家たち-教育、展覧会、市場」『国立西洋美術館紀要』24号(2020年3月p.45-56)を出版した。また官展を発表の場とした画家の例として、有馬さとえについて作品調査、ご遺族のインタビューをおこない、その報告を「有馬さとえ作《五月の窓》と《チャイナドレスの女性》」『香雪記念資料館館報』17号(2019年3月、p.59-64)に掲載した。また女性の日本画家と官展については、2018年度に引き続き文献調査をおこない、明治美術学会で発表、これを実践女子大学文学部紀要にまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
藤島武二《画稿帖》の内容についての調査研究を継続し、その報告の後半を学科紀要に投稿する。《画稿帖》は藤島が本画や挿絵を制作するために参考にしたとみられる小さい図を描きためたノートである。そのなかには本人の創作と思われるスケッチもあるが、多くは海外の雑誌やポスターなどの印刷物から写した縮図である。イギリスの雑誌『The Studio』との照合をおこない、多くの図がそこから引き写されたことを確かめたので、次はフランスの同時代の雑誌『la Plume』の復刻版とも照合し、対応する図を探す。また藤島の手紙についてはいくつかの美術館に照会をしているが、新資料をまだ見つけられていないため、引き続き調査をおこなう。また台湾、台北の北師美術館でおこなわれる藤島武二の新出作品などを含む「新資料」をテーマとする展覧会は、春から秋に延期となったので、それを見て新出作品を調査し、研究者とも意見交換をする計画である。ただし、現在のところ新型コロナウィルスの問題から大学図書館も外部者の利用を制限しており、また資料の調査を予定している美術館も閉館しているため、すぐには着手できない。そのため、現状としては、すでに大量の画像を収集している藤島のスケッチ帖の分析に注力する。スケッチブックには文字の書き込みは少ないが、それらを手がかりに、年代設定を含めて分析を進める。 また最終年度であるため、研究の総まとめとして、藤島の官展での役割について考察をおこなうとともに、新知見を加えた年譜を作成する。
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Causes of Carryover |
2020年3月末に台北で開かれる展覧会を見るために渡航を考えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって渡航が不可能となった。展覧会は2020年10月に延期になったため、100000円を翌年度に繰り越してこの旅費を中心に使用することとした。
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Research Products
(8 results)