2018 Fiscal Year Research-status Report
ムダルニズマ絵画研究 ―ルシニョルとカザスを中心に―
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18K00194
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
木下 亮 昭和女子大学, 生活機構研究科, 教授 (60195328)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ラモン・カザス / 貞奴 / 川上音二郎 / ピカソ / サンティアゴ・ルシニョル / 四匹の猫 / バルセロナ |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、ラモン・カザスが1902年5月に描いた素描肖像である《貞奴の肖像》(カタルーニャ美術館)と《川上音二郎の肖像》(演劇美術館)を主たる研究対象とした。ヨーロッパで広まった舞台での貞奴や音二郎のエキゾチックなイメージとは異なり、きわめて自然にポーズを取った貞奴と音二郎を写実的に描出しているカザス作品の制作について実証的な調査を試み、論文にまとめることが本年度の目標となった。 夏季休暇中に3週間余りスペインに滞在し、マドリード国立図書館やカタルーニャ図書館でまず当時のバルセロナで国外の演劇がどのように受容されていたのかを確認し、その環境のなかで貞奴たちの3日間のバルセロナ公演がどのように評価されたのかを新聞・雑誌記事を中心に分析した。続いて貞奴たちが公演をおこなったヌバタッツ劇場について、演劇美術館図書室で資料を集め、また写真アーカイヴで劇場内部の当時の写真を検索した。一方、二人の肖像を描いたカザスの旧アトリエについても現地調査し、写真撮影をおこなった。カザスはこうした演劇人の素描肖像を雑誌『ペル・イ・プロマ』に複製し掲載しているので、当時、こうした芸術雑誌を印刷した印刷所や印刷技術についても実証的に資料を集めた。また「四匹の猫」に集まる芸術家たちのなかには、貞奴たちの公演を見に行った画家たちがおり、彼らの貞奴の舞台に対する反応からムダルニズマの芸術観を推し量ることができた。 以上の現地調査に基づいて、貞奴と音二郎の肖像に関する考察を「貞奴と「四匹の猫」の画家たち ~日本の舞姫が訪れたバルセロナ~」と題した論文にまとめ、英訳も付し、自ら監修を務めた「奇蹟の芸術都市バルセロナ展」(長崎県美術館他)の展覧会図録(2019年4月刊)に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に比較的長期にわたりバルセロナでの調査研究ができたため、その研究成果を年度内に論文のかたちでまとめ、「奇蹟の芸術都市バルセロナ展」図録に収録することができた。この展覧会の出品作品には、本研究課題と密接に関係するムダルニズマの画家たちの作品が含まれており、カザスやルシニョル、ピカソを始めとする画家たちの作品が日本で展示される機会を得たため、夏季のバルセロナでの調査を待たずしてムダルニズマ絵画についての研究考察を継続していけるものと期待できる。 ただし初年度はラモン・カザス中心の研究となったので、本年度はルシニョルを始め他のムダルニズマの画家の作品についても、順次研究の対象に入れなければならないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年9月に実施するバルセロナでの調査をおこなうまでは、「奇蹟の芸術都市バルセロナ展」の出品作品を視野に入れながら、ムダルニズマの画家たちの創作活動についてこれまで集めたデータを整理する。とくに当時の画家にとって作品発表の場であった画廊でのグループ展や個展、国内外の公募展、それに対する美術批評を有機的に関連させる作業を進めたい。9月のバルセロナ滞在では、サラ・パレース画廊におけるカザスとルシニョルのグループ展について実証的な作品調査を試みる。 12月には、カタルーニャ美術館学芸員で新進気鋭のピカソ研究者であるアドゥアル・バリェスを日本に招き、スペイン・ラテンアメリカ美術史研究会主催でピカソについて講演会とシンポジウムを開催したい。ここでの議論の中心は、バリェスの近年の研究成果に基づいたバルセロナにおける初期ピカソの創作活動の再検討である。また本研究課題との関連からいえば、「四匹の猫」に集まっていた世代の異なる芸術家たちの、それぞれの創作活動のなかに指摘できる造形的志向と差異について分析することであろう。 このシンポジウムの成果は、2020年に刊行される同研究会誌に発表する予定である。
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Research Products
(2 results)