2019 Fiscal Year Research-status Report
ムダルニズマ絵画研究 ―ルシニョルとカザスを中心に―
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18K00194
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
木下 亮 昭和女子大学, 生活機構研究科, 教授 (60195328)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | サンティアゴ・ルシニョル / ラモン・カザス / ムダルニズマ / 四匹の猫 / パブロ・ピカソ / バルセロナ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は本研究代表者が科研課題の研究と並行しながら準備してきた、「奇蹟の芸術都市バルセロナ展」が4月から長崎県美術館、姫路市立美術館、札幌芸術の森美術館、静岡市美術館、東京ステーションギャラリーと順次全国5美術館で開催された。この展覧会は研究代表者が展覧会と図録を監修しており、開幕式や講演会等の関連行事においてスペインや日本国内の研究者との交流の機会を得ることができた。展覧会図録には「貞奴と「四匹の猫」の画家たち ~日本の舞姫が訪れたバルセロナ~」と題した論考を発表した。 さらに2019年度は科研費の一部で「ピカソとバルセロナ」と題するシンポジウムを企画し、年度初めから6か月間その準備をおこなった。本シンポジウムの企画のために9月初旬にバルセロナのカタルーニャ美術館図書室やカタルーニャ図書館で調査と資料収集をおこない、また招聘講演を依頼するアドゥアル・バジェス氏と打ち合わせをおこなった。バジェス氏は気鋭のピカソ研究者で、ピカソとその周辺の画家たちを取り上げた斬新な展覧会を次々と企画しており、現在はカタルーニャ美術館の近現代美術担当学芸員である。 12月7日にスペイン・ラテンアメリカ美術史研究会と国立西洋美術館の主催でシンポジウム「ピカソとバルセロナ」を同館講堂において開催した。本シンポジウムは、ピカソのバルセロナ時代の画家形成期にムダルニズマの画家ルシニョルやカザスらがピカソに与えた影響の再検討を促すとともに、カタルーニャ側とスペイン国外のピカソ研究者の視点の違いを示すことが目的であった。当日は、バジェス氏の招聘講演と日本のピカソ研究者による研究報告、さらに討議をおこない、研究者交流の機会を得ることができた。このシンポジウムで研究代表者が担当した趣旨説明は、2020年度スペイン・ラテンアメリカ美術史研究会誌に特別寄稿のかたちで掲載される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は「奇蹟の芸術都市バルセロナ展」を機にルシニョルやカザスをはじめムダルニズマの画家たちの絵画作品を日本で展示することができたため、何点かの作品調査が可能となり作品解釈の検討を繰り返すことができた。また同展覧会に関連し複数の講演をおこなうなかで、他のスペイン美術研究者と意見交換の場を共有し新知見を得ることができた。 夏季のバルセロナ滞在中には、ムダルニズマの芸術運動が活発化した19世紀末のバルセロナの美術の環境について調査をおこなった。とりわけ公立の美術学校を始めとする美術教育の場、画廊と美術市場、1888年万博以降に創設された市の美術館と美術展などについて資料収集をおこなった。一方、出版が予定されていた彫刻家クララソー総作品目録は未刊であることが判明した。 12月に開催したシンポジウム「ピカソとバルセロナ」の折には、来日したカタルーニャ美術館学芸員アドゥアル・バジェス氏と十分な時間を取って意見交換をし、研究上の貴重な助言を得ることができた。シンポジウムではピカソ研究者からの研究報告や提言があり今後の研究にとって有益であった。ピカソ研究のこれまでの蓄積を見直す機会となり、同時にルシニョルとカザスの創作活動が19世紀末から20世紀初頭の転換期のバルセロナでどのような位置を占めるのかを相対的に捉えることができた。 科研2年目もほぼ計画通り研究を進めることがかない、本研究課題のための文献資料をさらに蓄積できた。くわえて内外の研究者との交流が最新の研究動向を客観的に理解することの大きな助けとなり、本研究課題における問題の所在を絞り込むことができたと信じる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は1888年バルセロナ万博の後、画廊サラ・パレースで1890年以降継続的に開催されたルシニョル、カザス、彫刻家クララソーの3人展とライモン・カゼヤスの美術批評について主に考察を続ける予定であった。19世紀末パリの美術に大きく感化され新しい造形をバルセロナに紹介しようとした芸術家たちの活動と、前の世代とは異なる価値観を掲げた美術評論家の登場を資料に基づいて検証し、ムダルニズマ絵画を包括的に論じることが研究目的である。 ところがコロナ禍により、今後の研究の進め方を再検討することを余儀なくされている。スペインの状況は日本よりもさらに深刻であり、研究環境はその分大きく変化していると予想される。当初に計画していた9月のバルセロナでの作品調査は実施できない可能性が高いと考えられるので、夏季海外調査を先送りし、本年度の別の時期に調査するかどうか状況を見極めながら決定したい。 インターネット上の作業が可能な範囲で、雑誌・新聞記事の検証と作品図版の整理を継続し、同時に研究成果を発表する論文の構想を具体化していくつもりである。
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Research Products
(4 results)