2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00199
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
安永 拓世 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化財情報資料部, 研究員 (10753642)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 呉春 / 白梅図屏風 / 基底材 / 芭蕉布 / 葛布 / 表具 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.拡大写真に基づく葛布と芭蕉布との識別 昨年度の調査で、葛布と芭蕉布は組織や繊維がかなり類似しており、両者の同定に混乱がみられることが確認できた。よって、その峻別をおこなう必要から、まず、昨年度に調査した鄭嘉訓筆「七言絶句書」(沖縄県立博物館・美術館蔵)、後藤敬臣筆「七言絶句書」(沖縄県立博物館・美術館蔵)は、芭蕉布を基底材とすることが確実とみられるため、これらを芭蕉布の基準とみなした。一方、葛布については、昨年度実際に現在の葛布工房で制作した葛布や、掛川の画家という地域性から葛布を用いていることが確実な村松以弘の作例の基底材を葛布の基準とみなした。こうした両者の基準的な資料から、葛布と芭蕉布の相違点や特徴を抽出したうえで、昨年度調査してきた資料20点の拡大写真を比較・再検討し、それらを目視によって葛布と芭蕉布とに識別した。結果、7点が葛布、13点が芭蕉布である可能性が高いことを想定した。 2.科学的な分析手法の開発 昨年度、呉春筆「白梅図屏風」の基底材の科学的な分析については、保存科学研究センターの協力を得て、FT-IR(赤外分光分析)の測定器で分析をおこない、そのスペクトルが絹とは異なったため、絹ではない植物性の繊維が使われていることが判明した。ただし、同測定器では、麻、葛、芭蕉などの植物性の繊維は類似したスペクトルを示すため、繊維の特定には至らなかった。そこで、今年度からは、保存科学研究センターの早川典子氏の科研とも共同で研究をおこない、麻(苧麻、大麻)、葛、芭蕉などの植物性繊維を科学的な分析によって同定するための分析手法の開発を進めた。具体的には、東京農工大学の髙栁正夫先生の協力を仰ぎ、これらの植物性繊維の同定分析が可能かどうかの実験を始め、そのために、無形文化遺産部の菊池理予氏の協力を得て、苧麻、大麻、葛、芭蕉それぞれの制作地等で基準的なサンプルを収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
呉春筆「白梅図屏風」の基底材の解明については、科学的なアプローチを追加しておこなったほか、絵画の本紙部分のみならず、表装にも同種の基底材が使用されている事例を新たに確認するなど、研究自体は順調に進展し、一定の成果を挙げ、それらを論文や、講演、研究会での発表にも随時反映させている。 ただし、3月中旬以降、新型コロナウィルスの影響で、予定していた調査や出張が延期となったものも若干あった。
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Strategy for Future Research Activity |
拡大写真に基づく葛布と芭蕉布との識別によると、呉春筆「白梅図屏風」の基底材は芭蕉布に近いため、呉春や呉春周辺の画家と芭蕉布との関連性についても、さらなる検討をおこなったが、その過程で、呉春の他の作例の表具に用いられている裂の中に、「白梅図屏風」の基底材ときわめて類似した芭蕉布らしき裂が使われている事例が2件あるのを新たに確認した。 今後は、こうした表具裂の中に葛布や芭蕉布が使用されている例なども含めて、関連性の高い資料について、より広く検討する必要がある。 ただし、新型コロナウィルスの影響で、2020年度の前半に予定していた調査が延期や中止になるなど、今後の研究の進展にあたっては、大きな影響が予想される。
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Causes of Carryover |
3月以降に予定していた調査や出張が、新型コロナウィルスの影響で中止や延期になったため。
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