2019 Fiscal Year Research-status Report
礼拝像・祭具制作における素材選択の心性史:材質とその聖性の喧伝に関する調査・研究
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18K00202
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Research Institution | Administrative Agency for Osaka City Museums |
Principal Investigator |
児島 大輔 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪市立美術館, 学芸員 (50582376)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 素材 / 仏教美術 / 美術史 / 御衣木 / 銀仏 / 聖性 / 心性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も礼拝対象の素材に注目しながら、聖性を獲得する過程とその心性を明らかにすることを目的として調査研究を進めてきた。 まず、木彫仏像の素材選択に注目した「御衣木の由来―史料から見た木彫仏像用材の意識的選択―」を発表した。これは2017年に所属機関で開催した展覧会「木×仏像」に出陳した仏像用材に関する考察を土台としながら、木彫仏像用材である御衣木についてその後収集した文献史料を中心とする事例をまとめ、論じたものである。仏像用材は樹木として大地に立っていた時点あるいは木材として社寺建築等に用いられていた時点で聖性を獲得していたことを、様々な事例を通して紹介することができた。ただし、これらの事例は銘文や文献史料等の文字資料によって初めて明らかにされることが多い。今後は木彫仏像を観察することによって木彫仏像が仏像となる以前に素材自体に備わる聖性を認められていた事例を明らかにすることができるよう、引き続き事例の収集に努め調査研究を進めたい。 また、「三嶋神社妙見宮妙見神像について」では京都東山に鎮座する三嶋神社妙見神像について論じた。本像は長年にわたって補修を重ねてきたものと思われ、特に幕末から明治期に施されたと思われる表面の古色塗りによって造像当初の像容を大きく損ねてはいるものの、中世後期の塑造神像としてきわめて重要な位置を占めるものと推察された。しかも、もとは六条左女牛に祀られた源氏由来の若宮八幡に安置された大内家由縁の妙見神像である可能性が高いこともあわせて指摘した。本像は塑造という構造上からも、また年に一度の開帳をのぞいて秘されている神像であることなどからも今回の調査では接触や像の移動ははばかられた。今後、修理等を契機とした詳細な調査が実施される機会を待ち、さらなる知見が得られることを願っている。 このほかの成果については次項および業績一覧を参照されたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の研究実績報告以降に発刊された論文等として次の5件の成果を得た。①「描かれた大乗院庭園」国立文化財機構奈良文化財研究所編『名勝旧大乗院庭園発掘調査報告』奈良文化財研究所学報第97冊、②「総論 松伏町の仏像」ほか全作例編各解説『松伏町史 文化財編 仏像』埼玉県松伏町、③「御衣木の由来―史料から見た木彫仏像用材の意識的選択―」肥田路美編『古代寺院の芸術世界』鈴木靖民監修「古代文学と隣接諸学」6、竹林舍、④「復元学の照射範囲 ―課題抄出のための覚書―」海野聡編『文化遺産と〈復元学〉』、吉川弘文館、⑤「三嶋神社妙見宮妙見神像について」東昇・水谷友紀編『京都東山・三嶋神社文書調査報告』京都府立大学文化遺産叢書18。 また、口頭発表等については次の4件の成果を得た。①「松伏町の仏像・仏画―『町史』刊行を記念して―」松伏町の歴史講座、松伏町教育委員会教育文化振興課、②「三嶋神社妙見神像について」東山三嶋神社文書研究会、京都府立大学、③「素材を読み解く、素材から読み解く―美術史研究における調査手法の諸相」第65回夏季講座『金属工芸 ―技術復元とその裏側』黒川古文化研究所・西宮市教育委員会、④「復元学と美術史 復元における美術史・美術史における復元」『文化遺産と〈復元学〉』刊行記念シンポジウム「復元学の意義と課題」、東京大学。 さらに、これまでおこなってきた作品調査や資料調査の成果の一端を来年度所属機関において開催する展覧会で公開する予定である。本年度はその準備もおこなってきており、次年度以降へつながる調査研究を進めることができている。 以上から、おおむね順調に進展していると判断した。 ただし、新型コロナウィルスによる感染症等の流行については本年度末より対策を講じる必要に迫られている。幸いこれまでに実質的な被害は出ていないが、ひきつづき警戒にあたり、柔軟な姿勢で対応したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も素材に注目しながら、礼拝対象となるモノの制作における素材選択の思想的な背景の存否を追及するとともに、素材そのものに聖性等を認める場合の事例の収集につとめたい。 一昨年発表した「白銀の転生」では日本古代・中世における銀仏造像に見られる銀器等を転用した事例を収集し報告したが、銀仏造像の事例に関しては多く女性が関わることを指摘しながら、その根本理由を解き明かす余裕がなかった。次の段階ではこの銀仏造像の思想的な背景に迫りたいと考えている。 また、2020年度には所属機関で「天平礼賛」と題した展覧会を開催することで研究の成果の一端を公開する予定であり、今年度からその準備を進めている。本展では具体的な絵画・彫刻・工芸・書跡といった諸分野にわたる作品を陳列することで、いわゆる天平美術が後世に影響を与え続けた事象を紹介し、さらには天平美術を模した作例や天平美術に触発された作例の制作背景を考察することでその心性を明らかにしたいと考えている。 さらに、新型コロナウィルスによる感染症等の流行にともない、今後の海外における調査および資料の収集等は著しく制限されることが予想される。こうした場合にも、可能な限り国内での調査研究に振り替えるなど、これまでの進捗状況を踏まえつつ、当初予定に拘泥することなくその都度柔軟な対応策を講じることで研究課題の推進に努めたい。
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Causes of Carryover |
本年度は調査に時間を費やすことができたため、当初予定よりも旅費に多くを費やした。結果、次年度使用額として13,545円が繰り越されるが、本年度も助成金を適正に使用した結果生じたものである。次年度は所属機関において研究成果の公表を含む展覧会の開催を予定しているため、この準備にかかる調査研究に対する使用が多くを占めることとなる予定で、ひきつづき助成金の適切な使用につとめたい。
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Research Products
(2 results)