2021 Fiscal Year Research-status Report
Fusing Art Activities of Jaoanese Painting and Clinical Art : Synthetic Development with Psychological Approaches
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18K00219
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Research Institution | Atomi University |
Principal Investigator |
柴田 眞美 跡見学園女子大学, 文学部, 教授 (10260978)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉田 秀二郎 文化学園大学, 国際文化学部, 教授 (70350204)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本画 / 臨床美術 / 心理学的質的分析 / 心理尺度 / 創作実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本画画材と感性を解放する臨床美術的手法の親和性に着目し、量的・質的な心理学的分析方法による構造化を伴った、新たな創作実践を開発する事が本研究の目的である。 これまでに実施した創作実践(日本画の画材を用い、臨床美術的感性画を取り入れた)について、参加者の創作実践前・後における記述を読み込み、質的観点からの整理を進めた。 創作実践参加前の記述について、期待感などのポジティブな言葉としては、『日本画が初めてなので楽しみ、興味があり楽しみ、絵具が久しぶりで楽しみ、子供のころの思い出を再度実現できそう…』などが見られたが、『絵に関して全く知識がないままここに来たので正直何もわからず不安、何もわからないので不安ですごく緊張している、型に囚われないで制作したいが難しそう、初めて使う画材なので上手くいかない気がする、自分の中で何が描きたいのか分っていないから迷走しそう…』などの「不安」を表す記述も目立った。 一方、創作実践後の記述では、『最終的な完成形は最初考えていたものと違った、もう少しバランスが取れたと思う、そのものの大きさが思い通りに行かなかった、もっと感情のままに描きたかった、…』など不満足を示す言葉が見られたものの、満足を示すものとして、『ちゃんと出来た、満足できる作品ができた、自分の好きな色合いを出せた、岩絵具を生かせた、好きに構成出来た、雰囲気を出すことができた、自分が上手く見せたいところは綺麗に出来た、自分の頭の中を忠実に構成出来た、自分が想像した感じで描けた、自分の心から感じた絵を描くのは楽しい・・』などの言葉が目立つ。またそれらの記述の中に『自分の~』という表現が散見される事から何らかの「感性の解放」が生じていることが示唆された。この結果を踏まえ、進化させた創作実践を試みた。 現在、他の項目の分析と構造化、分担研究者による量的分析も進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本画の画材と感性を解放する臨床美術的手法を融合させた創作実践を試み、創作実践参加前後の、参加者の思いについて、複数の設問に関する自由記述(質的)および尺度(量的)により収集たデータについて、解析を行なっている。 絵画(美術)の初学者が対象であり、創作実践参加前には、絵を描くこと自体に対する不安、未経験の日本画の画材に対する不安の言葉が目立ったが、創作実践後では、自分の好きな色、自分の考え、自分の感じたように表現出来た・・・というように、自らの内にあるものを解放して美術表現として表出する体験につながっていることが示唆されている。参加者の記述(言葉)に作品とともにじっくりと向き合いつつ質的分析をしていくことは、当初の予想よりも相当の集中力と時間を要している。いくつかの設問に関しては、さらに読み込みを継続し、尺度法による量的分析の結果と合わせて、「構造化」に向けて構築していく必要がある。 また、初学者ばかりではなく、臨床美術士でありつつ、自身の作品制作を行なう作家としての活動をしている方々への具体的なアンケートを準備中である。当初計画では、海外(フィンランド)の研究者との共同ワークショップも視野に入れていたものの、長引くコロナの影響や、昨今のウクライナ情勢から進展が怪しい。 以上の事から、創作実践による分析が進展し、構造化の目途が見えつつも、専門家へのアンケート調査および海外との連携部分が遅れており、総合して「やや遅れている」という判断に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
現在分析を行っている、創作実践前後のアンケート調査データについて、全ての項目について分析し終える事が急務である。その上で、参加者の記述(言葉)および作品の読み込みの質的分析と、尺度法による量的分析を総合しての、「構造化」へ向けての構築を行なう。 質的分析を担当する研究代表者は、これらの美術の初学者対象の創作実践の実施及び分析に加えて、臨床美術士であり美術作家でもある方々にアンケート調査を実施する。量的分析を担当する分担研究者は、一般社会の方々向けに、「子供の頃お絵描きなど好きであったか、大人になってからはどうか、現在は美術に関わっているか、美術を見るのは好きか、美術をしてみたいと思うか、美術創作は才能がないと無理と思うか、上手下手と評価されないなら楽しんでみたいか、何かに没頭してストレス解消になるか・・」や「日本画」について知っていることや興味などに関する質問紙調査を行ない、美術の創作実践や日本画というものが社会にどのように認識されているかを捉え、本研究で開発している創作実践が社会にどのような事を提供できるかを探索する。 当初計画にあった、海外(臨床美術と共通点の多いエンカウンター・アートが盛んなフィンランド)での創作実践ワークショップについては、長引くコロナの影響や、昨今のウクライナ情勢により、本研究期間内での実施を変更し、次の機会に送らざるを得ないかもしれない。その場合には、国内においての創作実践を、本創作実践において重要性の高い日本画の画材をさらに充実させ、進化させたものとして実施し、効果(殊に素材との対話について)を検証する方向に変更する。
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Causes of Carryover |
長引くコロナの影響及び、昨今のウクライナ状況により、海外(フィンランド)の研究者との共同ワークショップを見合わせてきたため、旅費及びワークショップの画材費等が未使用である。今後も影響が長引く場合には、海外でのワークショップの計画を見直し、国内にて、本研究にとって重要な要素である画材(日本画画材)をより充実させ、材料との対話を更に掘り下げて考究する創作実践を行なう予定である。 また、社会一般にとっての美術の力を探索するための質問紙による調査については、これまでのデータ分析が今少し進んだ段階で調査内容(質問紙内容)を精査し、実施していく予定である。
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Remarks |
第8回 花とみどり・いのちと心展(2121.12.4~2022.1.10、国営昭和記念公園 花みどり文化センター)にて、日本画画材を多用し、臨床美術的な感性の解放表現を駆使した、インスタレーション作品「時のかけら」を発表した。感想帳には、本研究で目指す創作実践(心を解き放つ)に結びつく記述が認められた。
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