2020 Fiscal Year Research-status Report
コミュニティ音楽療法の包摂と排除-生態学的視点からの事例検討による多層的理解
Project/Area Number |
18K00220
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Research Institution | Kunitachi College of Music |
Principal Investigator |
三宅 博子 国立音楽大学, 音楽学部, 准教授 (40599437)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 音楽療法 / コミュニティ音楽療法 / 生態学的環境 / 参加 / 相互触発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、個人ないし地域交流拠点における音楽療法の実践事例を検討し、価値観や背景が異なる参加者の音楽的-社会的相互行為を生態学的な視座から分析し、音楽活動の過程で生じる包摂と排除の相互的様相を明らかにしようとするものである。①実践調査②分析解釈③成果発表の3つの軸によって研究を行い、以下の実績を得た。 ①実践調査 1)障害者対象の個人音楽療法セッションを、オンラインにて6回実施した。また、音楽療法個人セッションから地域の音楽活動への移行として昨年度立ち上げた音楽クラブの活動を、オンライン2回、対面6回の計8回実施した。対象者自身は生活環境の変化等により参加できない状況が続いているが、他の参加者の日常生活に必要な活動の一つとして定着しつつある。2)東京都内の地域交流拠点で継続中の音楽活動は新型コロナウイルスにより休止となったため、オンラインの活動を1回実施した。周年記念イベントでは町を練り歩いて演奏し、参加者どうしの交流を図った。 ②分析解釈 ③成果発表 1) 障害者対象の個人音楽療法における即興演奏場面の微視的な分析を行い、共創学会第4回大会で「重度重複障害のある青年との音楽療法場面の質的分析の試み―二人称的関わりの視点から」と題して発表した。発表後の振り返りで、対象者と療法士が数年かけて積み重ねた相互行為の「読み解き」の歴史を指摘され、分析視点に大きな示唆を得た。2)地域交流拠点における音楽活動場面の分析と共同創作した歌の検討を行い、活動への参加と相互触発を通して、多様な個の存在からなるコミュニティの一員として「生かされている」感覚を確認・促進することが、コミュニティのエンパワーメントにつながることを推察した。この成果を、第16回世界音楽療法大会の基調セッションで「相互的なエンパワーメントのプロセス:多様な存在に価値を置くコミュニティの音楽活動」と題して発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①実践調査については、新型コロナウイルスの影響により音楽活動ができない期間があったため、予定よりも調査が遅れている。1)個人音楽療法事例では、対象者の生活環境の変化により、予期しない形でセッションを終結せざるを得なかった。終結後の移行先として立ち上げた地域音楽活動への参加もできない状況が続いているが、活動自体は定着してきており、この状況を研究課題の一環と捉えている。2)地域拠点の音楽活動では、休止期間を経て参加者の意欲や帰属感はむしろ上がっており、主体的な参加や活動内容の発案につながっている。 ②分析解釈 ③成果発表については、国内の音楽療法研究者と共同で海外の研究者を招聘し、日本音楽療法学会第20回大会における自主シンポジウム「音楽療法臨床の研究:内側へ深く知り、外側へ豊かにつなげるための可能性をさぐる」の準備を進めてきたが、学会の実施形態変更のため開催することができなかった。一方、国内外の音楽療法臨床研究者による「音楽臨床研究対話会」や、音楽的相互行為に関心を持つ研究者による小規模な研究会をオンラインで継続的に開催し、研究視点を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度となるため、昨年度までの学会発表をもとに事例分析をさらに進めて、論文化を目指す。1)個人音楽療法事例では、音楽構造(環境)と参加者間の関係の相互的な変容について、それを「読み解く」視点そのものを協働で作ってきた過程に着目してまとめる。2)地域交流拠点の音楽活動事例をまとめるにあたっては、活動参加者や関係者と振り返りの機会を持ち、音楽活動の経験とコミュニティへの参加の感覚について考察する予定である。 1)と2)に通底する視座として、共感、共同、協働、共創、分断、孤立などのキーワードから文献調査を行い、音楽療法を介して多様な人々が「共にある」ことに関わる理論的視点を精査する。 なお、本研究は対面による音楽活動の実践を含むため、新型コロナウイルスの状況に応じて、活動や振り返りの方法を変更する必要がある。状況に応じた変化を研究課題の一環と捉え、その時々で可能な方法を創造的に探りたい。
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Causes of Carryover |
国際学会発表のための海外出張と、海外からの講師招聘に関わる支出を予定していたが、いずれも実施できなかったため、予定との差額が生じた。また、2019年度に支出予定であった実践活動のための楽器購入予算も引き続き繰り越されている。これらは、オンライン学会や研究会での海外講師の招聘、オンラインを含む実践・研究活動の環境整備費用、楽器購入、分析解釈に必要な機器やソフトの拡充などに充てる予定である。
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