2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00235
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
藤野 一夫 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20219033)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 文化政策 / 地域創生 / まちづくり / アートプロジェクト / 基礎自治体 / 文化芸術推進基本計画 / アートマネジメント / 文化的コモンズ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題である「文化政策による地域創生の戦略的研究」に関して、調査拠点である豊岡市の文化施策のリサーチを継続するとともに、兵庫県内の自治体として類似した特徴をもつ丹波市の文化資源の調査と文化政策の策定の支援を行った。具体的には2018年4月から2020年2月まで行ってきた「丹波市文化芸術推進基本計画」の策定を支援し、その報告書を作成した。その際に2019年10月19日に開催した総括シンポジウムの内容をテープ起こしして採録し、また参画した各ゼミ生の所感と考察を掲載した。これにより国内外の比較の視点から、日本の地方都市の文化政策の策定に関わることで、新たな学びを得るとともに、政策提言の面でも貴重なアイディアを集積できた。 また、大阪府下の基礎自治体の職員と結成した「文化・芸術を生かしたまちづくり研究会」を継続し、これまでに全国26箇所の文化施設、自治体、アートNPO等を対象に実施したインタビュー調査をベースとして編著『基礎自治体の文化政策 まちにアートが必要なわけ』を水曜社から上梓した。その編集過程において、自治体職員と活発な議論を行い、また適宜、指導・助言を行った。類書に見られない本書の意義と特徴は、ピアレビューによって、課題解決への汎用性の高い実践知が紡ぎ出されている点である。ここでのピアレビューには二重の機能がある。①職員=研究員が、他都市や他地域の職員、団体、政策、施設、事業、活動などについて同じ目線で批評・評価すること、②それらの考察を、各研究グループの枠をこえて、職員=研究員たちが相互に批評・評価したことである。 さらに本年度、神戸市で開催された2つの芸術祭、Trans-Kobeと下町芸術祭に中心メンバーとして関与することで、調査研究の1にあげた「国際芸術祭などの時限定なアートプロジェクトによる交流人口の増加と地域資源の再発見」に関して多くの知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
急激な少子高齢化に直面している地方都市や地域において、文化政策やアートマネジメントの観点から、どのような計画や施策が実施されているかについて、各地に固有の文化資源を調査し、活用の観点から研究し、それを公的な計画の策定や政策提言に活かすことが出来ている。その際に、文化・芸術による地域創生の戦略と方法は多様であり、いかに固有の文化資源を再発見し、それを最大限に生かしていくかが重要となる。そのための実例の分析と提言については予定どおりに進捗している。 また研究課題の成果である編著『基礎自治体の文化政策』を2年目に出版できたことで、研究成果のフィードバックが実現でできたことは大きな進展である。 ただし、新型コロナの感染拡大によって、年度末に予定していたドイツでの調査が実施できなかったことは残念である。日独の比較研究の面では最終年度に傾注したい。
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Strategy for Future Research Activity |
調査研究の2に上げた「中小都市の維持発展に寄与する文化芸術施策と文化産業の融合による循環型文化経済の仕組み」および3に上げた「コミュニティの持続可能な発展を支える文化芸術活動のための人材育成」については、引き続き調査研究を継続する。 他方、新型コロナの感染拡大による文化事業の中止や延期、文化施設の休館や閉鎖、芸術文化関係者の活動の停滞と収入源などは、まったく予想していなかった事態である。今後、フリーランスの芸術家の失業や転職、芸術団体の解散、関係企業の倒産などの事態が予想される。このような文化芸術を取り巻く急激な環境の変化を的確に把握し、「パンデミックと芸術文化活動」に関する短期的な支援策の提言と、中長期的な文化施策をまとめる必要を痛感している。 研究代表者とその研究室は、従来から文化政策の国際比較研究と国内の芸術文化施策に多元的に関与してきたが、新型コロナ危機のもとで、日本の文化政策の脆弱さが露呈し、あらゆるジャンルの芸術文化活動の継続が困難になってきている。どのような危機的状況においても、芸術文化は「不要不急」のものではない。芸術文化は平時にのみ営める贅沢ではない。生存の危機的状況においてこそ芸術文化の真価が発揮される。 けれども、政府をはじめ日本社会の現状は、そのような認識から程遠いところにある。このような芸術文化への価値観と、具体的な公共文化政策の相違は、なぜ先進国の中で異なるのだろうか。その原因を突き止め、芸術文化の社会的価値を明らかにし、それをもとに具体的な支援策を継続的に提言する必要がある。研究代表者とその研究室は、阪神・淡路大震災以後、東日本大震災も含め、芸術文化の復興と、芸術文化による都市・地域の復興に、長年取り組んできた。その研究と社会貢献の実績を生かして、本テーマと真摯に向き合いたい。
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Causes of Carryover |
2月~3月に実施を予定していたドイツおよび国内出張による調査研究が、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う渡航禁止および国内出張の自粛に伴い中止(次年度への延期)を余儀なくされた。そのため予想外の次年度使用額が発生したが、次年度において海外渡航及び国内出張が可能となった時点で現地調査を再開し、本年度に予定されていた使用計画と合わせて研究費補助金を使用する。
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[Book] 基礎自治体の文化政策2020
Author(s)
藤野 一夫、文化・芸術を活かしたまちづくり研究会
Total Pages
288
Publisher
水曜社
ISBN
978-4-88065-478-2
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