2020 Fiscal Year Research-status Report
「学習マンガ」の表現構造と制作現場における意味生成プロセスの実証的研究
Project/Area Number |
18K00245
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
山中 千恵 京都産業大学, 現代社会学部, 教授 (90397779)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀧下 彩子 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (50370177)
伊藤 遊 京都精華大学, 付置研究所, 准教授 (70449552)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 学習マンガ / ポピュラー文化 / 教育 / マンガ表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「学習マンガ」のメディア的特性を「マンガ表現論」の観点から実証的に示すことにある。教育を目的として編まれ、児童書籍として流通し、学校図書館に所蔵されることもある「学習マンガ」は、情報伝達ツールとして日本で独特に発展し戦後巨大な市場を形成した。海外でも翻訳出版されているが、研究的には看過されてきた。国内外の教育現場や博物館においてその活用に関心が向けられる中で、学習マンガとはどのようなマンガなのかを語る言葉すらないのが現状である。そこで本研究では、現在発売されている諸シリーズを対象とし、舞台設定・シーン構成(コマ展開)・キャラクター造形という観点から分析を加えるとともに、制作現場における表現の成立過程を参与観察により明らかにすることを通じて、学習マンガジャンルそれ自体を成立させる社会的価値とは何かに迫る。学習マンガの歴史は、戦中(創成期)に始まり、教育環境の変化した1970年代(発展期)、大人向けに広がった1980年代(展開期)を経て今にいたる。本研究は戦後日本社会に焦点を合わせ、主に発展期から展開期までのシリーズを扱う。2020年度は、参与観察法により作成過程にある学習マンガ作品の制作プロセスを記録し、表現が、作家・編集者によってどのような価値判断のもと選択されていったのか検証した。特に、現場における葛藤に注目してその類型を整理した。そして、これまで明らかにしてきた、発展期以降、学校教育現場向けに作られてきた学習マンガの諸シリーズを対象に、マンガ表現論の知見を援用しつつ舞台設定・シーン構成(コマ展開)・キャラクター造形という観点から表現の特徴を質的・量的に分類・分析した結果をふまえつつ、現場の葛藤をいかに解決していけばいいのかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ感染症拡大により、対面による共同での分析が困難となり、また成果報告の場も減少したため、予定よりやや遅れている。2020年度は、昨年度までにおこなった記録に追加する形で、研究メンバーの一人が直接かかわった学習マンガ制作プロセスに注目し、参与観察法により作成過程にある学習マンガ作品の制作プロセスを記録し、表現が、作家・編集者によってどのような価値判断のもと選択されていったのか検証した。特に、現場における葛藤に注目してその類型を整理した。そして、これまで明らかにしてきた、発展期以降、学校教育現場向けに作られてきた学習マンガの諸シリーズを対象に、マンガ表現論の知見を援用しつつ舞台設定・シーン構成(コマ展開)・キャラクター造形という観点から表現の特徴を質的・量的に分類・分析した結果をふまえつつ、現場の葛藤をいかに解決していけばいいのかを考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、最終的な目標である、学習マンガ表現の特徴を示すパターンと、その制作プロセスにおける技法選択時の判断を支える価値観とは何かを明らかにするために、これまでの調査結果を総合する。また、追加で、現状とこれまでの分析結果をいかに関連させていくのかを問うために、追加で最新の版と旧版との具体的な比較分析を行うことにした。これらの作業を通じて、伝達内容だけではなく、それを伝達するメディア形式・表現方法を含めた議論を行い公共的知識の伝達を追求してきた「学習マンガ」とは何かという問いを深めていく。 また今後、これらの結果をもとに、成果報告を広く行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は、新型コロナウイルス感染拡大などの事態もあり、研究会をZOOM等の電子会議で代用したため、交通費を削減できた。他方出張が十分に実施できなかったため、対面でのワークショップや遠隔地の図書館での資料収集が十分おこなえなかった。それにともない資料整理人件費を計上できなかった。海外学会・シンポジウムにおいて、現地での発表が中止になった。これらの予算を繰り越し次年度使用とする。次年度においては、感染状況をみつつ、実施が可能であれば出張を伴う資料収集および整理を行い、難しい場合は補助的な電子ツールの導入を行うなど対策を講じ、対面状況に近い作業が可能になる環境を整え、分析を深化させるとともに、オンライン環境でも可能な形態を中心に成果報告を行う予定である。
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