2019 Fiscal Year Research-status Report
A Social Study of the Dynamism of Infrastructural Esthetics
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18K00250
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福島 真人 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10202285)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | インフラストラクチャ / 科学社会学 / 審美性 / デューイ美学 / 公衆 / 景観 / 視覚芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、一般的にインフラと呼ばれるテクノロジー構造がどのような審美的特性をもつか、つまりインフラ美学とでも称すべき領域についての理論および経験的研究である。本年度特に着目した点は、インフラの設計、形成にあたる一種の非対称性、つまりインフラをつくる側(エンジニア、都市計画者等)の論理と、それを受容する一般住人、利用者等の間にある、不均衡な関係である。インフラをつくる側には、様々な製作意図があるが、その中には審美的な視点があったりなかったりする。他方住人や利用者がそのインフラに対して審美性を感じるか否かも、特定インフラの外観のみならず、おかれた空間的、歴史的状況等に関係している。こうした側面の考察には、対象の考察範囲を空間、時間的にも拡大する必要があり、またインフラを含めた景観(landscape)一般に関しても、その考察をすすめる必要があり、関係論文、学説の組織的なレビューが必要と判断した。その結果明らかになったのは、 ①landscape概念は、基本的に三つの構成要素からなり、それは実体的、視覚的、および観念的の三つである。(日本語の訳語である景観は、やや視覚のみに偏っている) ②こうした景観を形成するにあたって、視覚芸術の役割が非常に重要という指摘が多く、論者によってはそれのみが景観を形成するといった強い主張もある。 こうした観点にしたがって、インフラ的な対象物の視覚芸術的な表現を組織的、歴史的に観察すると、国による大きな力点の差があり、特に米国、ドイツ等でこうした表現が先行して誕生すると同時に、他方こうしたインフラを一般的なlandscape概念にくわえることに対して、つい最近まで(特にlandscape architect達)の間で多くの抵抗があったことが次第に明らかになった。それはlandscapeという観念に、土地的、農村的というニュアンスがあるからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画における個別のインフラ的事例の具体的分析という方針からは多少方向転換をしたが、インフラを巡る非対称性においては、こうしたインフラ的な対象に対するより広い視点からの理論的反省が不可欠という観点から、方向をやや歴史的方向に変換した。それにともない、2019年度は現在のインフラ設計の過程や成果よりもむしろそうした現代的な観点から必ずしも設計されていない構造物がどのような形で視覚表象されうるのか、という視点から、対象を再吟味することになった。こうしたインフラという対象物をより広い景観(landscape)の議論に置き換えると、実は現在活況を呈している国際的なlandscape研究の流れにおいて、こうしたインフラ的景観をどうとらえるかは、国際的にみても試行錯誤状態が続いており、その意味では、現在の進捗状況はこうした国際的な流れに十分益する方向に進んでいると考えられる。そうした方向からThe Journal of Material Culture誌にNoise in the landscapeという原稿を投稿しており、現在査読進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は研究の最終年度として、課題の総括的な分析をおこなう。そこで重視されるのは、 ① インフラ設計およびインフラ受容(特にその審美的な側面)がより大きな景観(landscape)の観点からどのようにおこなわれてきたかを、特に設計と受容の間の非対称性(つまりその間にギャップがあること)に焦点を当てながら、歴史的事例の分析および理論的な概念図の構成につとめる。 ②海外の景観論者たちが主張するように、一般的な景観意識の形成における視覚芸術の役割は重要であり、特に農村風景等ではそれが風景画というジャンルとして確立しているが、そうしたプロセスが都市インフラのような対象に対しても成立するのかについて、歴史的な事例を分析する。 ③それらを総合して、現在おこなわれているインフラ美化、或いはインフラ設計についての新たな傾向、事例について批判的な再検討をおこない、新時代におけるインフラ美学とはどうあるべきかを考察する。
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Causes of Carryover |
書籍の納入時期に不確実性が生じ、少額が次年度に繰り越しになったが、少額のため従来通りの計画に支障はない。
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