2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00254
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
保科 英人 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 准教授 (80334803)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文化昆虫学 / 科学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,日本,朝鮮半島,中国,台湾の東アジア各国文化の中における昆虫観を文化昆虫学の手法を用いて異文化比較を行い,科学史的考察によって人々の現在の昆虫への感情がどのように形成されてきたか,そして現代文化や昆虫保護思想にどのような影響を与えているかを調査し,東アジア地域の昆虫観の実態を明らかにすることを目的とする. 平成30年度は国会図書館や大都市の公立図書館,宮内庁書陵部にて,新聞記事や雑誌,未刊行史料の文献調査を行い,近現代期の人々の昆虫観に関連する資料を収集した.特に,鳴く虫,ホタル,カジカガエル,セミ,トンボへの人々の見方を重点的に調査した.この中で,鳴く虫やホタル,カジカガエルについては金銭で取り引きされていた実態が明らかになった.ホタルに関しては明治大正期に売買目的で大量の個体が捕獲され,一部地域では乱獲により数が著しく減少していたことが分かった.ホタルに対しては近代日本人よりも,現代の日本人がよほど丁重に扱っていることが明らかになった.鳴く虫については,現代の日本では町中で普通に買えるのはスズムシだけである.しかし,近代期には,スズムシの他,マツムシ,カンタン,エンマコオロギ,クツワムシ,キリギリス,ウマオイなど多種多様な鳴く虫が商品として扱われていたことが判明した. 平成30年度9月には中国広州に出張し,文化昆虫学の資料を収集した.中国広州市内で見つけた昆虫民具は質量ともに多くはなかった.しかし,現地で収集した蝶型小物などは日本では決してみられないものもあり,中国華南地方の蝶に対する親近感の一つとみなされると推測された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
主な分析対象の文献資料である,新聞記事,雑誌,宮内庁書陵部所蔵未刊行史料のうち,特に新聞資料が当初の想定以上に効率的に収集できている.そして,その分析も計画以上に進捗している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度以降は,生物としての昆虫と,近現代の文学,玩具,絵画等でモチーフとしての昆虫との違いに着目する.同じ昆虫としての扱いであっても,実際の昆虫とモチーフとしての昆虫の間には外部形態の大きな違いが生じることが少なくない.そして,その違いは文化の中における昆虫の捉え方に影響されることが多いと予想される.そこで画像による両者の形態比較を行う.また,近現代の昆虫イラストの変遷を調査し,年代ごとの科学水準が人々の昆虫観に与えている影響度を分析する.この調査は申請期間中継続的に行う. また,東アジアないしはその周辺のアジア地域(韓国,中国,サイパン)への出張を研究期間中にあと数回行う予定である.現地にて,昆虫をモチーフとする文房具やアクセサリー,玩具を現地調査し,街中のマンホールや看板などに描かれた昆虫を探索する. さらに世界各地の文化昆虫学の文献資料を収集する.文献資料の分析によって,東アジアとそれ以外の地域における昆虫文化の比較研究を行い,東アジア地域漢字文化圏の昆虫観の特徴を明らかにする.この調査は申請期間中継続的に行う.
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Causes of Carryover |
当初,昆虫形態分析のための双眼実体顕微鏡および,それに装着する顕微鏡用カメラの購入を予定して,予算を計上していた.しかし,従来から大学に備え付けられていた双眼実体顕微鏡に,顕微鏡用カメラを装着できることがわかった.その結果,双眼実体顕微鏡の購入が不要になったので,次年度使用額が生じた.2019年度は,その次年度使用額を用いて,より倍率の高い必要な生物顕微鏡を購入し,昆虫の詳細な形態比較研究を行う
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Research Products
(5 results)