2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00256
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 和行 京都大学, 文学研究科, 教授 (60273421)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ガリレオ・ガリレイ / 科学革命 / 運動論 / 太陽中心説 / 『世界系対話』 / 慣性法則 / 宇宙論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,考察の対象を初期・中期の著作から,後期の『世界系対話』へと進め,第一に,天体観測の成果が宇宙論にもたらした影響について口頭発表「ガリレオ『世界系対話』と望遠鏡による天体観測」(日本科学史学年会,2019年5月)を行った.発表では,『世界系対話』において,とくに望遠鏡による天体観測に関わる記述(月表面,太陽黒点,彗星)を取り上げ,初期・中期の(『星界の報告』,『太陽黒点論』,『偽金鑑識官』など)における議論と比較検討した.第二に,地球の運動が自然学的問題を解決するために,ガリレオが展開した新しい運動論について検討した. 第二に,主著『世界系対話』を中心に,宇宙論との関わりの下でガリレオの運動論の発展を検討し,論文「ガリレオ『世界系対話』における運動論」にまとめた.ガリレオは,地球の運動を擁護するために,伝統的な運動理論を否定し,独自の斬新的な運動論を『世界系対話』において展開している.その成果は,自然運動と強制運動の否定,いわゆる「円慣性」の法則,運動の合成,運動の相対性,落下運動の法則などに現れ,アリストテレス自然学に基づく伝統的な運動論を根底から覆すものだった.さらにガリレオは,これらの,本来は地上の物体に関して考案された運動理論を,地球を初めとする惑星といった天体(天上の物体)に適用することを試み,伝統的な宇宙論の枠組を乗り越えようとしていたことが明らかになった.すなわちそれまでの地上世界と天上世界に二分されていた運動論を,宇宙全体に適用可能なものとして新たに構築しようとしていたのである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究状況は概ね計画通りに進捗している. 今年度は,研究実績でも述べたように,初年度に行った,望遠鏡による天体観測がガリレオの宇宙論にもたらした影響についての研究をまとめるとともに,さらに彼の新しい運動論を宇宙論,との関係に着目して検討した.とくに『世界系対話』の検討に焦点を置き,ガリレオの新しい運動論と太陽中心説擁護(地球の運動の主張)との関わりを中心に関係するテキストを分析し,慣性法則や運動の相対性,運動の合成に代表される,彼の革新的な運動理論が太陽中心説に基づく新しい宇宙論と密接な関係の下で発展していったことを確認した. 今年度の研究の中心である運動論に関わるテキストの検討においても,最終年度における研究に備え,自然学的な問題や自然研究の方法に言及しているテキストについての検討を随時合わせて行っている.『偽金鑑識官』や『世界系対話』といった,ガリレオの主著が対話編で書かれていることもあり,彼の叙述は脱線が多く,散漫であり非体系的であるが,テキストの中に散らばっている言説から彼の主張を構成する作業を始めている.また運動論に関わる議論は,同時に彼の自然研究の方法を適用した最良の事例でもあり,運動理論の考察を通じて彼の科学方法論の考察へと研究を展開つつある.さらに,落下運動に関わる重要な概念である「重さ」の概念の検討を始め,ガリレオの「新しい自然学」を構成する新しい物理学的概念に関する考察の第一歩として,最終年度の研究への準備を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,三年間の本研究の最終年度であり,当初の予定に従い,過去二年間の研究成果を踏まえて,次の二点について検討を進める. 第一に,ガリレオの「新しい自然学」の方法論がどのように発展していったのかという問題を検討する,初期の著作(『太陽黒点論』),中期の著作(『偽金鑑識官』など),そして後期の著作(『世界系対話』・『新科学論議』)の検討を通じて,具体的に問題の文脈において考察する.とくに,天文学における道具主義(現象を救うための天文学)の議論や,数学の自然研究への適用の有効性をめぐる問題などを検討することを通じて,ガリレオの方法論が伝統的な学問構造にどのような影響を与えたのかを解明する.また「重さ」の概念のような基本的物理概念の改鋳はガリレオの新しい運動理論,さらには数学的自然学の成立にとって不可欠であったが,その成立過程を太陽中心説に基づく新しい宇宙像との関連に焦点を当てつつ,テキストに即して検討を行う. 第二に,自然研究と聖書研究をめぐる議論を検討する.この問題については,とりわけ中期に属する「カステッリ宛書簡」および「クリスティーナ大公妃宛書簡」を検討する.この論争は,保守的な哲学者や神学者との間でなされ,ガリレオの宗教裁判にも繋がるものとして研究者から注目されてきたが,またここで自然研究の自立性を主張するために彼が展開した真理観は近代科学の認識論的出発点ともいうべきものとしてきわめて興味深いものである.ここでは,とくにガリレオの自然研究の認識論的位置付けに注目し,それまでの自然哲学における方法論・真理観との対比を通じて,彼の新しい自然学の特質を解明する.
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Research Products
(2 results)