2019 Fiscal Year Research-status Report
近代産業遺産の発掘と活用方法に関する研究~西陣製織技術の移入・変容・発展~
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18K00263
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
藤野 靖子 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 教授 (50363966)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 近代産業遺産 / 西陣織 / 織物技術 / 織物組織構造 / 織物産業 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目は、まず近代産業遺産の発掘調査として、丹後産地を中心に行なった。多くの技術を支えてきた近代の産業機械機器が現在も稼働し、その地の産業によって生み出される繊維素材を特徴付けている。本年度は特に「撚糸」に焦点を当てて調査研究を行った。今回の発掘調査では、強撚糸を実現するための機械として、京都と丹後共通に発展してきた八丁撚糸機の変遷と仕組み、現状についての研究を行った。さらに、海外より移入した大型の撚糸機についても調査した。また、強撚の糸を製織可能にするための技術や機械に関しては、強撚糸織物として、丹後産地の代表的なちりめん織物と、西陣織の代表的な「お召」との技術比較を行った。 1年目の調査で多くの裂資料収集を実現できたため、本年度はその整理と分析をし、裂資料が持っている近代産業遺産としての大きな役割について考察した。裂が示す織物の組織構造は、その歴史を紐解くだけでなく、「近代産業遺産」の新たな活用への手がかりとなる可能性を発見した。この研究は、かねてより行ってきた西陣織の伝統産業を支えてきた箔糸の技術研究と合わせて、製織による実践的検証、フィジビリティスタディとし、その実験成果を10月に発表した。これは、綜絖や開口装置、通糸や目板などの製織システムの検証も視野に入れたものである。当初の研究計画における裂から捉える機システムに付属する研究の十分な成果であり、引き続き最終年度にも発展できる研究となる確信を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 研究が概ね順調に進展しているとした大きな理由は、今年度10月に行なった成果発表である。製織システムの仕掛け技術の変遷の中で上げている、1.開口装置、2.通糸装置、3.目板装置、4.紋紙装置、5.道具についての実践的な研究と検証が進み、また、裂から捉える機システムに付属する仕掛けの研究と合わせて、新たな近代産業遺産の新たな活用プロトタイプとしての研究成果を発表するに至った点は、進捗状況において評価できるものであると考える。 調査においては、丹後地方に何度も足を運び、強撚糸についての調査研究、西陣での強撚糸と比較研究できたことは、昨年度の反省点として不十分であったとした西陣織の研究を、今年度においては十分に進めたと言える。ただ一つ、3、4月で行う予定であった、富士吉田産地の調査が延期せざるを得ない社会情勢となり、「プロダクトコミュニティー」創出のための基盤となる調査研究に遅れが生じていることは否めない。さらに研究機関である大学の使用ができない状況を鑑みると、この先の研究の遅れが懸念される。よって、最終年度の研究計画の見直しを図る必要がある。早急に具体的な変更案を策定し、その実効可能な計画を丁寧に進めて、最終年度での研究の結実を図る。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で述べたように、研究機関である大学の使用ができない状況で、また、現地調査にいけない現状が今後しばらく続くであろうと懸念される。その中で、最終年度としては、プロダクトコミュニティー研究の対象として、当初計画してきた富士吉田産地ではなく、これまで何度も調査研究を行ってきた丹後産地で行うこととした。研究計画で記した、「プロダクトコミュニティー」を活用した現代社会の中で通用する新たなプロダクトを社会に発信することを目標にする。 また、西陣織物がその技術の変容から発展し、独自にうみだした技術の歴史の提示としては「羅」織物に焦点を当て、その研究成果の結実を目指す。素材や意匠、紋、綜絖、機仕掛け、製織手法や道具など、分断されているその工程を、その中に内在する有形無形の「近代産業遺産」を通した関係性を意識しながら、現代に発信するものづくりを実践的に検証する。また、西陣織もの特有の装置である、紋紙、はつり、ふみせと棒刀などに焦点を当てた情報収集と、それを用いた新たなプロダクトの可能性を示すための実験を行う。 さらに、近代産業遺産発掘の研究成果として、フランスより移入された機について、特に現存しているJacquard機、Vincenzy機、Verdol機についての比較研究や発展変容の歴史についてのまとめを行う。 3年間の研究を総括して、今後の研究の発展を可能にする知見の獲得を目指す。
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Causes of Carryover |
3、4月で行う予定であった、富士吉田産地の調査が延期せざるを得ない社会情勢となり、そのために残しておいた研究費が次年度使用額となっている。 今般の社会情勢と研究機関の状況を鑑みて、実現可能な研究の手法についての修正案を策定し、次年度での研究の実現を図っている。
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