2020 Fiscal Year Research-status Report
西欧近代医学教育カリキュラムの背景思想と理念について:書誌調査と分析
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18K00265
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
澤井 直 順天堂大学, 医学部, 助教 (40407268)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 医学学習指南書 / 医学書誌目録 / 医学教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は16・17世紀の医学書誌目録と医学学習指南書の関連について調査した。医学書の存在を知らしめる医学書誌目録は、医学学習者にとって医学書の発見・入手を可能にする重要な手がかりとなっていたことは容易に想像されるが、当該年度の調査はより深い関連を見出すことができた。 西欧では15世紀末から各種の書誌目録が出版されるようになり、16世紀初頭から医学書のみを扱う書誌目録が登場している。16世紀の多くの医学書誌目録は著者ごとに項目が立てられ、各著者の著作が列挙される、著者分類の形をとっていた。 主題分類による医学書誌目録は16世紀末から登場し、1637年にリンデンが出版した『医学著作について』において一つの完成をみる。この『医学著作について』の冒頭に「医学の手引」と題した、「医学学習指南書」と同じ目的で書かれた章がある。そこでは①医学の特質や医学内の諸分野の簡単な紹介、②各分野・主題について数人の重要な著作家の列挙、が行なわれている。 「医学の手引」は1639年に内容を拡充して独立した書籍として出版される。さらに1687年にリンデン以外の4人の著者による医学学習指南書と合冊で出版された。このような出版形態の変遷が意味するのは、医学学習指南書と医学書誌目録の類似性と相違性である。「医学の手引」が書誌目録の中にあったということは、書籍の書誌や内容を提示するという点において類似性があったということである。しかし、「医学の手引」が書誌目録から独立して出版されるようになったということは、医学書・著者の網羅を意図している書誌目録に対し、学習者に必要な書籍を選別している医学学習指南書は異なる目的を持っていた。 医学学習指南書と医学書誌目録は, 初期近代における医学情報の流通や医学教育における情報提示のあり方という観点のもと, 互いに関連し合うジャンルとして考える必要があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、医学学習指南書の収集と書誌情報の目録の作成とともに、医学学習指南書の分析を開始する予定だった。 実績の概要で示したように、医学学習指南書というものの性格を考えるにあたり、医学書誌目録との関係性を押さえた。これをもとに医学学習指南書の分析を進めていく準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は収集した医学学習指南書の分析を中心に行なっていく。 16世紀から18世紀末までの医学学習指南書を収集したが、先ずは指南書の章立てによって大まかな比較を行い、そのうえで、詳細な内容の比較を行なっていく。 比較にあたっては最初からすべてを対象にするのではなく、16世紀、17世紀、18世紀の3つに分けて作業を進めていく。作業をしながら記の3つの分類が妥当かどうかを確認しながら、必要があれば新たな分類を行いつつ比較を進める。 その上で、当時の医学教育の状況やカリキュラムとも対照させて初期近代の医学学習指南書の性格や意義について考察する。
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Causes of Carryover |
英文論文の校正費と論文掲載費として使用するつもりだった。 しかし、年度内に論文執筆が間に合わなかったため、次年度使用額が生じた。 2021年度の早い時期に論文を完成させ、校正費と論文掲載費として使用する予定である。
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