2018 Fiscal Year Research-status Report
日本における予防接種の「副反応」をめぐる議論と法制度の歴史社会学的研究
Project/Area Number |
18K00267
|
Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
香西 豊子 佛教大学, 社会学部, 准教授 (30507819)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 予防接種 / 副反応 / 法制度 / 種痘 / 歴史 / 歴史社会学 / リスク / 予防医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度にあたる2018年度には、種痘が日本において、有用な医療技術とされるにいたった経緯を検証した。 予防接種は日本列島で、18世紀半ば以降、「種痘」(天然痘に対する予防接種)として行われはじめた。その当初より、術後に被接種者が障害を負ったり死亡したりする例がみられたが、18世紀後半には、種痘を領内の全人口に強制する地域もあらわれる。その後、明治期にいたると、 種痘は国家の衛生事業となり、全国民に対して接種が義務化される。と同時に、この接種義務に違反した者を処罰する規定をもうけた法制度が、しだいに整備されたのだった。 2018年度には、18世紀半ばから明治期にかけての、種痘に関する資料(医書・医案類・藩政文書など)の読解・分析を通して、その間の「副反応」に対する評価と政策との関連性を析出した。そのなかで、(1)反種痘を唱えたとしてのみ知られていた、考証派の医師らの言説の全容を明らかにできたこと、および(2)種痘と「社会」(オランダ語経由のde maatschappijという概念)および政治との関連性に言及する幕末期の資料を見出し、詳細に分析できたことは、大きな成果と言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画をたてる段階では、近世期の資料が各地の文書館・資料館に散在しているため、アクセスできる資料数を正確に見積もることが難しかった。しかし、実際には、調査・資料複写に協力的な資料所蔵機関が多く、想定以上の資料にアクセスすることができた。その結果、初年度に予定していた研究課題を、より深く追求したうえで、成果論文をまとめることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度の課題が順調に達成できたため、第二年度は研究計画どおり、明治期以降、日本で種痘を全国民に強制する法制度が制定された経緯の調査・研究にあてることとする。 明治初年以降、日本では、種痘を全人口に強制する法制度が整備され、東京府から段階的に全国で施行されはじめた。そして、政府関係者の欧州(ドイツ・オランダ)の視察以来、法制度の強制の度合いはしだいに高められ、ワクチンの製造技術も改良される。研究の第2段階となる本年度は、その間の制度的・技術的改変を、当該機関作成の文書から探るとともに、政府関係者の視察を契機に欧州のどのような法制度が選択的に日本に導入されたか、また導入に際しては医学や政治・教育の領域でどのような議論がおきたかを、欧州および日本の種痘法関連書籍や医学雑誌・公文書・行政当局作成の報告書から解明する。
|