2020 Fiscal Year Research-status Report
山東京伝の吉原文化圏に関する研究-柳沢米翁の俳諧交友と大名の茶道交流の解明
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18K00273
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鹿島 美里 北海道大学, 文学研究院, 専門研究員 (00609068)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 山東京伝 / 柳沢米翁 / 江戸座俳諧 / 前田春来(二世青峨) / 東風流 / 松平不昧 / 茶道 / 大名文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、山東京伝と係わりの深い大名俳人大和郡山藩主柳沢米翁と前田春来の俳諧交友について調査を進めた。米翁の俳諧宗匠であった前田春来(二世青峨)と米翁の係わり、春来が目指した江戸座俳諧について明らかにした。当時の大名俳諧の重鎮、柳沢米翁が春来と春来の門人米仲を師としており、加えて大名子弟の酒井抱一も春来を師としていた点は、非常に重要といえる。春来は、蕪村や存義ほど重要視されていない人物であったが、其角後の宝暦期の江戸俳壇において大きな影響を与えた人物であることが明らかとなった。春来の目指した俳諧は、芭蕉から教えを受けた其角・嵐雪の向上体であったと考えられる。特に其角は芭蕉の影響のもと其角独自の俳風へと進化させ、その俳風は其角の『句兄弟』(元禄七年序)に見られるように蘇東坡や黄山谷などの宋学からの影響を典拠とする古人の句作を換骨奪胎して用いる「点化句法」を重視した作風となっていく。しかしこれら宋詩の根本理念を拠り所とした其角流の俳人たちは、宋詩を否定する古文辞学派の隆盛にともない、この思想的逆風のために分裂せざるを得なかった。そのためこれらの分裂した其角の俳諧を春来はもう一度『東風流』で目指したことを考察した。これを「『東風流』序文について―春来(二世青峨)が目指したものとその影響」(『「東風流ー宝暦俳書の翻刻と研究ー』所収、世音社(2021))としてまとめた。本書では『東風流』巻一の翻刻と巻六所収「寒梅や」歌仙評釈(名ウ1~挙句担当)、巻二所収「猪も」歌仙評釈(名ウ1~挙句担当)を担当した。 また、京伝の洒落本『通言総籬』に見られる名物茶碗の調査、分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
柳沢米翁とその俳諧宗匠前田春来(二世青峨)の江戸座俳諧活動について『東風流』からその意義を考察し、其角・嵐雪への回帰を目指す俳風の位置づけについて論文をまとめた。芭蕉から其角、嵐雪をへて宝暦期の春来、晩得、米仲へ続く江戸座の俳風を大きな流れの中で明らかにすることができ、江戸座俳諧の交友関係から京伝の文化圏が見えてきた。加えて歌仙の一部についても解釈を行った。 また山東京伝と茶道文化の係わりについて調査を進めた。五島美術館企画展から大名文化と茶道に関する知見を得た。京伝文化圏の中で、大名を庇護者とする茶道や江戸座俳諧の文化的構造が調査により明らかになってきた。加えて大名と文化の係わりについて、会津若松の会津藩では、藩主の主導により、文化や思想、産業構造が一体となった社会形態を見ることができた。藩祖保科正之が山崎闇斎を招いて朱子学の教えを普及させ、漆などの生産奨励を行い、社倉制を設けるなど、領民の生活の安定をはかる社会構造が認められた。大名が領内に与える影響は大きく、産業や文化、思想が伝播していく一形態を見ることができ、京伝と大名の文化圏を考える上での発見となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も引き続き、京伝作品に描かれた茶道具の伝来から京伝の吉原文化圏との係わりを調査する。俳諧交友をもとにした大名と吉原者が係わった茶の湯の交流関係を明らかにし、大名子弟をパトロンとする京伝の吉原文化圏を解明する。京伝の洒落本『通言総籬』では名物茶入の話題が記されるが、『通言総籬』に見られる大名や吉原に係わる人々の所持した茶道具からその交流関係の解明を進める。また『通言総籬』に登場する吉原見番創設者の大黒屋庄六(俳号秀民)が所持した高麗茶碗の伝来を調査する。 これら京伝作品に見られた茶道具を『雲州蔵帳』、『古今名物類聚』、『遠州蔵帳図鑑』、『土屋蔵帳』、『万宝全書』、『大正名器鑑』等の資料から調査を進め、大名や吉原者が所有した茶道具について解明し、論文化する予定である。これにより山東京伝の吉原文化圏に関する研究をまとめてゆく。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた書籍が品切だったため、次年度の購入を予定している。
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Research Products
(1 results)