2019 Fiscal Year Research-status Report
帝国日本の空間フレームと非識字読者をめぐる文化翻訳の抗争に関する研究
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18K00294
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高 榮蘭 日本大学, 文理学部, 教授 (30579107)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 翻訳 / 日中戦争 / 空間フレーム / 非識字読者 / 検閲 / 出版 / 植民地朝鮮 / 文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、帝国日本の空間フレーム(図書館・古/書店・露店など)を参照軸としながら、①非識字読者の獲得を欲望する合法/非合法出版市場の担い手たちの間で繰り広げられた、新たな文化の編成をめぐる抗争と交錯、②それをめぐる記憶が、1945年以後の旧内地、旧外地において、冷戦構図を媒介に、如何に「翻訳」され、歴史化されたのかを明らかにすることを目的とする。 2019年9月13~14日に、シカゴ大学のKyeong-Hee Choi教授をお招きし、京都大学名誉教授の水野直樹氏とともに、共同研究に関する打ち合わせを行った。高は「帝国日本における検閲空間の交錯」をめぐる発表を、Kyeong-Hee Choi氏は、帝国日本の検閲に関する英語圏での研究状況に関する報告を行った。日中戦争と識/字読者の問題を中国・韓国・日本の専門家と議論するために、韓国圓光大学の金ジェヨンさんと毎年一回の学術会議を行うことにし、第1回目の会議を2019年12月14日にソウルで行った。高は「「戦線」報国をめぐる内鮮「言語/翻訳」共同体―「女流」「小説家」「林芙美子」という磁場から―」という発表を行った。2021年1月10日には、アメリカのワシントン大学で、同大学のE・Mack氏、大妻女子大学の五味淵典嗣氏、韓国成均館大学の千政煥氏と共催で、出版市場と情報統制に関するワークショップを行った。 共著として坪井秀人編『戦後日本文化の再考』(三人社)、翻訳として河野貴美子ほか編『日本「文」学史 第三冊ー「文」から「文学」へ-東アジアの文学を見直す』(勉誠出版)の刊行に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二年目にあたる2019年度は、昨年度から継続作業として、基礎的な資料の集めと、研究成果の公開方法の模索、共同研究の基盤作りを行った。空間フレームに関する基本資料は、植民地朝鮮における空間形成をめぐる非文字資料(地図など)の収集および出版、建築物の研究で大きな注目を集めている建築家・冨井正憲氏の助言をえながら、資料集めを行っている。昨年度に引き続き、ワシントン大学、シカゴ大学の蔵書について、それぞれの図書館司書である田中あずさ(ワシントン大学)氏、吉村亜弥子(シカゴ大学)氏の全面協力を得ながら、研究を進めている。 シカゴ大学のKyeong-Hee Choi氏とは、週に1回、スカイプやZoomを利用し、英語による共同研究論文の執筆のための研究会を続けている。帝国日本における差別的な空間政治の問題について考える際、検閲の問題は避けてとおれない。シカゴ大学はよく知られている通り、メリーランド大学プランゲ文庫を整理調査し、日本の占領期検閲研究に大きな貢献をした、奥泉栄三郎が主任司書を務め、東アジアの検閲資料を多く保有していることで有名である。Kyeong-Hee Choi氏は、奥泉氏とともにシカゴ大学における朝鮮関連のコレクションの充実化を図ってきた。韓国圓光大学の金ジェヨンさんとは、日中戦争期と冷戦時代の東アジアにおけるアメリカと日本の役割に関する二つの共同研究プロジェクトを運用するために韓国研究財団に研究基金を申請中である。本科研プロジェクトと連携させながら、中国・ベトナム・台湾の研究者たちと冷戦構図の中に日本帝国の記憶と空間フレームがどのような形で介在していたのかについて明らかにすることができるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
①昨年に引き続き、1930年代前後における、合法/非合法出版の植民地読者の包摂にかかわる資料を分析する。メディアの発信者としての出版資本だけではなく、帝国側に対するメッセージ発信ツールとしての、資本を持たない側による「うわさ」「チラシ」「壁紙」「檄文」「ビラ」まで調査対象を広げる予定である。また、植民地朝鮮の検閲研究の専門家として名高いKyeong-Hee Choiさんとともに、アメリカ・朝鮮・日本・台湾の検閲資料を調査し、研究成果をまず英語で執筆し、アメリカで刊行される学術雑誌に発表する予定である。その作業の準備として、シカゴ大学で打ち合わせ会と国際ワークショップを開催し、関連領域の専門家の助言を求めることにした。我々の共同研究については、シカゴ大学から研究費の支援を得ることが決まっており、2020年7月末から一カ月間にわたってシカゴ大学に滞在しながら調査を行う予定である。コロナウィルスの影響で時期をずらす可能性はあるが、共同研究は続ける予定である。②国際会議を企画・開催する予定である。8月中にシカゴ大学の Kyeong-Hee Choi氏と共同研究の成果を英語で発信するための検討会(国際会議)をシカゴ大学で開催する予定である。韓国成均館大学校文科大学CORE事業団・韓国細橋研究所と連携する形で、2017年に立ち上げた日韓人文学フォーラムの2020年冬開催をむけて日程を調整している。金ジェヨン氏と共同で、ベトナムでの国際会議の秋の開催にむけて企画中である。③本科研による研究成果を公開するために、単行本の執筆を行う予定である。出版社もすでに決まっており、できれば科研の終了にあわせて刊行できるように、執筆中である。
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Causes of Carryover |
2020年2月から3月までのあいだ、本テーマに関する国際ワークショップを三つ予定していたが、新型コロナウィルスの影響ですべて中止せざるを得なかった。来年度からは、オンラインの利用などを含め、新たな研究方法を模索すると共に、秋以後に予定している国際会議の開催のための資金として使用したい。
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Research Products
(7 results)