2018 Fiscal Year Research-status Report
紀州地域の寺社圏における歴史叙述資料の文献学的研究―史的言説の集積と考証―
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18K00318
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
大橋 直義 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (50636420)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 縁起 / 紀州地域 / 西国順礼 / 歴史叙述 / 法燈派 / 修験 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実績は、おおむね、次の3点に概括しうる。 第一に、研究計画の中心に据えていた道成寺文書調査の進展である。道成寺の経蔵には、著名な重要文化財『道成寺縁起』の他にも、中世後期から近世にいたる文書函および古典籍(写本・版本)を収めた倹飩函が伝来する。このうち、常時、数函を勤務先研究所にて借用し、日々わずかづつであるが着実に調査・撮影を進めている。その成果は、シンポジウム報告「道成寺の縁起と芸能―南北朝から近世への道程―」(和歌山県立博物館、2019/3/10)として一部結実した。なお、今年度は前倒し請求を行ったが、それも3年間にわたる協力者の調査出張旅費を捻出する必要がなくなったことを見越しての変更であった。 第二に、葛城修験に関する文書・典籍についての研究があげられる。これは研究計画として記載したものではなかった、派生的な研究テーマであったが、和歌山大学紀州経済史文化史研究所管理「向井家文書」や七宝瀧寺蔵の文書・典籍を調査・分析するなかで、葛城修験を領導する聖護院門跡および醍醐寺三宝院の影響についてかなりの部分が明らかになり、しかもそれが近世の道成寺においても極めて大きなトピックであったことを見いだしえた。この点は、主担当となった紀州経済史文化史研究所特別展「加太・友ヶ島の信仰と歴史―葛城修験二十八宿の世界―」図録および展示解説目録等、さらにシンポジウム報告「『七宝瀧寺縁起』と志一上人のことなど」(和歌山県立博物館、2019/3/9)において明らかにした。 第三に、興国寺が拠点となった臨済宗法燈派における歴史叙述研究の進展である。前記『七宝瀧寺縁起』関連の研究とも関わるが、興国寺・粉河寺および那智、さらには禅林とも連なる法燈派のネットワークと『西国順礼縁起』および粉河寺御池坊蔵『粉河寺御池海岸院本尊縁起絵巻』さらに延慶本『平家』との関わりについて論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学術論文およびシンポジウム報告などの口頭発表、さらには展覧会というかたちによっても、学界・社会にその成果を還元できており、加えて、当初想定していなかった葛城修験という視点を獲得しえたことは、本研究計画の遂行状況を考える上で、大きなプラス材料である。また、道成寺文書や向井家文書、その他、葛城修験に関連する寺院経蔵文献などについての進捗も当初の想定を大きく越えている。しかしながら、本研究のひとつの核と考えていた興国寺文書については、今年度では特筆すべき成果をあげることはできていない(ただし興国寺にかかわる法燈派関連文献についての進捗・成果はあった)。この点を差しひき、「概ね順調」と位置づけたい。
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Strategy for Future Research Activity |
道成寺文書のみならず、今年度、検討が及んでいなかった興国寺文書、さらには葛城修験に関連する文書・典籍群の調査を継続して行なう。特に今年度においては、これらの結節点と見込まれる七宝瀧寺および日根荘に関連する文書・典籍調査を重点化したい。そのことによって、紀伊半島における諸寺社における歴史叙述・文書典籍収集の様相が明らかになってくるものと考えられる。
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Research Products
(9 results)