2020 Fiscal Year Research-status Report
書簡・雑記資料を中心とした17~18世紀学芸史の研究
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18K00320
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川平 敏文 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (60336972)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 文会雑記 / 湯浅常山 / 室鳩巣 / 兼山麗澤秘策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、次の二つの資料を電子テキスト化し、自身の研究用ウェブサイト(閑山子LAB、https://www2.lit.kyushu-u.ac.jp/~kawahira/)で公開を行った。一つめは、湯浅常山の『文会雑記』である。本資料は、徂徠学派の人々の言行や逸話を筆録したもので、本研究で取り組んでいる常山の『先君子与仲龍書』と内容的に深く関わる。つとに知られた資料ではあったが、電子テキストは公開されていなかった。二つめは、やはり『文会雑記』と同様に徂徠学派の人々の言行や逸話を集めた、編者未詳の『ケン園雑話』である。これらの電子テキストは、常山および徂徠学派の研究に少なからず貢献するであろう。 次に、常山『先君子与仲龍書』の解読を行った。本資料は、岡山県備前市の正宗文庫にしか所蔵されない稀覯の写本資料で、その文字の解読はなかなか容易ではない。そのため、調査は遅々として進まないのであるが、しかし、特に常山が岡山藩のなかで、儒学者としてどのような待遇を受けていたか、藩の政治に対してどのような意見を持っていたか、同時代の学者についてどのような見解を有していたか、などといった問題についての、有用な知見を得ることができた。今後も作業を継続し、全容の把握につとめたい。 また、昨年度から引き続き、室鳩巣の書簡を集めた『兼山麗澤秘策』の書名・人名データベースの構築作業を行った。こちらは全8巻を通しての、いちおうの事項採取を終了できた。ただし、同一書名・同一人物のいわゆる「名寄せ」には至っておらず、継続して作業を進めるつもりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、『先君子与仲龍書』の翻刻を行う予定であったが、先述のとおり、本資料解読作業には、なかなかの困難を強いられている。他の図書館などに諸本が伝存していれば、それとの比較も考えられるが、本資料は正宗文庫所蔵の一本のみなので、それもかなわない。かつ、以前に本資料を撮影したデータを用いて解読作業を進めているが、ピンボケなど不明箇所を確認するため、原本調査に出かけたい気持ちはあるものの、コロナ禍のために出張の目途が立たない。そのようなさまざまな事情があり、本資料の翻刻は取りやめて、内容を精査することにとどめた。ただしその代替措置として、同じ常山の著述である『文会雑記』、およびそれとほぼ同傾向の内容をもつ『ケン園雑話』の電子テキスト化、およびその公開を行った。これらは、内容的には『先君子与仲龍書』と同じく徂徠学派の人々の内情が知られる資料であり、本資料の翻刻・公開に準じる研究的価値があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究の最終年度となる。予定としては、第一に、『先君子与仲龍書』の内容紹介を行う論考を発表したい。本資料の内容には、地方の藩の儒学者という立場の者が、どのような経済状況にあり、どのような政治問題に関心をもって生きていたかがわかる部分がある。その意味で、『兼山麗澤秘策』に書かれた幕府の儒学者・室鳩巣のそれとの対比が有効ではないかと考えている。第二に、『兼山麗澤秘策』の書名・人名データベースを整備し、自身のWEBページ上で公開したい。いわゆる「名寄せ」作業に時間を要するかもしれないが、できるかぎり正確なものにしたい。第三に、これまでの研究を総括しつつ、さらにこの研究の発展形として新しい研究テーマを練り上げ、科学研究費補助金の申請をしたい。特に『兼山麗澤秘策』の諸本研究は、全国各地の図書館に調査に行くことで遂行されるが、去年度来のコロナ禍のため、最終年度もほぼ絶望的であろうと予想される。新しい研究課題には、この点もぜひ盛り込みたい。
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Causes of Carryover |
本年度の支出に余りが生じた理由は、コロナ禍のために、予定していた諸本調査のための出張がまったく実行できなかったこと、それにともない、そのデータ整理などのために確保していたアルバイト謝金が支出できなかったことが大きい。 次年度も出張がかなり制限されることが予想されるため、旅費としての使用はあまり現実的でない。『兼山麗澤秘策』書名・人名データベース整備作業を強化し、そのためのアルバイト謝金や、作業用ノートPCの購入、『先君子与仲龍書』考察のための参考図書購入費などとして使用する予定である。
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Research Products
(2 results)