2018 Fiscal Year Research-status Report
近世前期江戸出版界における〈江戸〉意識の萌芽についての研究
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18K00321
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
母利 司朗 京都府立大学, 文学部, 教授 (10174369)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 江戸版 / 用文章 / 江戸意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題研究は、江戸の本屋が、上方の本屋との連携の中で、どのように「独自性」を発揮しようとしていたのか、その「江戸」意識の萌芽について明らかにしようとするものである。 本年度は課題研究の1年目として、以前とりあげたことのある『江戸新用文章』という古い江戸版の往来物を再度とりあげ、その後判明した伝本を俎上に載せながら、あらためてこの本と上方版との関係を調査した。 考察結果は「古版『用文章』再考―近世前期江戸出版界における〈江戸〉意識の萌芽(1)―」(『京都府立大学学術報告(人文)』第70号・平成30年12月刊)に発表した。 論文で明らかになった最も大事な点は以下の通りである。明暦3年の刊記をもち、『江戸新用文章』という題簽をもつ唯一の伝本(下巻のみ。母利蔵)と同版とみられる伝本(個人蔵)が新たに出現したが、これも下巻のみであり、かつ題簽を欠く。しかし、表紙の見返しに、江戸の地名を記した寺院の名前と延宝年間の年次の落書きがあり、題簽を写したと思われる「新用文章」という落書きもある。明暦3年という刊記が元の上方版のものかどうか曖昧なままであったが、これにより、本書の江戸における出版も、明暦3年からそう遅れることのない出版であったことが明らかになった。 上方の出版物の単純な覆刻版であるにもかかわらず、江戸の地図類を除けば、書名に江戸を冠らせた最も早い出版物は、今のところこの往来物と見られ、江戸の本屋における〈江戸〉意識の萌芽は、確実に明暦ころにはじまっていたということである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から計画していた資料をとりあげることができ、考察結果も順調に得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の研究計画のスケジュールに従って、該当の資料の調査にあたり、誠実に考察を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
近世前期に江戸の本屋が出版したと思われる版本を、情報を得次第、迅速に収集することにつとめたが、考えていた以上に少数部しか入手できなかった。その代替措置として、そのような出版物を比較的多く所蔵する個人にお願いし、デジタル版として収集したが、デジタル版を収集する費用は、版本そのものを収集する費用に比べ、格段に安価であった。また研究成果としてとりまとめた論文でとりあげた資料は、それらを所蔵する個人より、版本を郵送して調査する便宜を得たため、旅費を格段に節約することができた。これらの理由により次年度への繰り越しが生じた。 今年度についても、かならずしも版本を多数収集できるとはかぎらないが、その場合においても、デジタル版の収集を増やすなどして、精力的に資料の収集につとめたい。
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