2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00326
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
石川 透 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30211725)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 丹緑本 / 江戸時代初期 / 版本 / 絵入り本 / 奈良絵本・絵巻 / 御伽文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
丹緑本とは、江戸時代初期に制作された版本に彩色を施した絵本群のことである。残念ながら国内外に点在していることもあって、これまで本格的な研究がほとんどなされることもなく、その所在目録すらできていなかった。また、御伽草子の語源となった御伽文庫本は、横型奈良絵本とも関わる本であるが、その成立には、丹緑本として作られた可能性がきわめて大きいことが分かってきた。このような状況の中で、国内外の丹緑本の所在を網羅的に調査し、できうる限り多くの伝本を撮影デジタル化した上で、本格的な研究を行いたい。これによって、これまで謎であった丹緑本の制作方法や、各地に伝わる偽物とされる丹緑本と本物の丹緑本との区別の問題も解決できるものと考えている。それらの情報は、可能な限りインターネット等を通して、誰にでも役立つようにしたい。 以上の方針から、2018年度に続いて2019年度にも、できるだけ多くの丹緑本の調査を行うこととした。特に、簡単には調査できない海外所蔵の資料の情報収集、並びに現地調査を行った。ワシントンDCにあるフリア美術館や、多くの絵入り本資料を保管するアイルランド国チェスタービーテイ図書館、さらには、フランス国立図書館や米国ニューヨーク公共図書館等である。また、国内でもこれまで知られていなかった丹緑本の調査を行うことができた。このような作業は研究歴の乏しい資料については最低限必要であり、簡単には結論が出るものではないが、最重要課題として今後とも継続していきたい。現在、丹緑本については、一般的な知名度は乏しいが、少しでも日本文化の一端を広めるためにも、丹緑本に関する講演会を開催することにしているが、2019年8月24日に、奈良絵本・絵巻国際会議の一部として丹緑本に関わる講演会を、慶應義塾大学において開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は、2年目としてはおおむね順調であると考えている。総合的な学術研究としては初めてとなる丹緑本の研究は、まずは、どこに何が存在しているかを調べる必要がある。これまでに報告されている作品については、さほど問題はないのであるが、急遽情報が入る作品も少なくはない。優先順位としては、何の報告もない作品が最上位となり、古典籍下見展観大入札会のような機会も重要である。また、これもよく起こることではあるが、丹緑本としては登録されていないのに、実際には丹緑本であることもあり、逆に、丹緑本として登録されていても、実際には違うこともあるのである。特に、丹緑本には、偽物の存在が古くから指摘されており、本物か偽物かということが、本研究の重要課題でもあるので、丹緑本ではないかという情報がある限りは、現地に向かうことをこころがけている。 2019年度も、実際に調査の難しい海外所蔵の作品群の調査を優先し、費用も多くは海外出張に割かざるを得なかったが、国内に保管されている丹緑本についても、ある程度の調査をすることはできた。しかしながら、やはり問題なのは、近代になってからの彩色ではないかと思われる作品がある程度存在していることである。それを見分ける基準作りが必要であると感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、しばらくは、初年度と同じ作業を繰り返すことになる。すなわち、丹緑本を保管している、国内外の機関や個人宅においての現地調査を行い、多くの情報を収集するのである。その際に、撮影可能であるならば撮影し、デジタル画像を比較しながら研究を推進することになる。当たり前のことではあるが、未開拓の分野については、初期段階での情報収集が最も重要であり、私自身も奈良絵本・絵巻の研究において実感したことである。 したがって、国内外での現地調査に最も多くの費用を使用することになるが、目的物を調査した時点で、新しい情報が入ることがよくある。2019年度に調査に赴いた場所でも、目録化されていないがこのような作品を所蔵しているとか、目録化されていても、その情報が間違っていることも、特に海外では頻繁に起こるのである。もちろんそのような場合には、同じ場所に赴いて調査を行うことになる。しばらくは、このような作業の繰り返しが今後の推進方策であるといえよう。 以上のような方針は今後も変化はないが、気がかりなのは、2020年1月から始まった新型コロナ問題による、内外の図書館・美術館等の丹緑本を所有する施設の動向である。場合によっては、本企画において最も基本的で重要な丹緑本の調査が行えない可能性がある。その場合には、これまでのデータの整理や、古典籍販売目録を含むネット上に掲載されている丹緑本の調査を中心に活動を続けたいと考えている。
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Research Products
(3 results)