2020 Fiscal Year Research-status Report
日本占領地における中国知識人の「抵抗」と「協力」の交錯――女性作家・梅娘を中心に
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18K00346
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
羽田 朝子 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (90581306)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 梅娘 / 日本占領地 / 小婦人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本占領地における中国知識人の「抵抗」と「協力」が交錯する精神について検討し、とくに日本占領下の北京で活躍した女性作家・梅娘の文学に 着目し、その複雑で矛盾に満ちた精神を読み解くものである。とくに梅娘の言論や文学に表出された近代性と民族主義の相克、戦前・戦後のテーマの連続性について着目する。 当該年度は、梅娘の戦争末期の複雑で矛盾に満ちた精神が反映された長編小説「小婦人」について、占領下における梅娘文学の全体の文脈をとらえた上で検討を行った。 「小婦人」では駆け落ちをして結ばれた夫婦が主人公に設定されているが、先行研究では夫の心変わりによって妻が苦しめられる姿が描かれていることから、この作品について男性中心社会への批判を描いたものと見なしてきた。これに対し本研究では、「小婦人」が夫婦のうち妻の視点だけでなく夫である男性の視点、そして夫婦の仲を裂く愛人の視点からも描かれていることに着目した。とくに愛人はモダンガールとして描かれており、男性が質朴な妻とモダンな愛人との間で揺れ動く心情が詳細に描かれている。そして男性にとって男女の愛情は社会への奉仕と密接に関連したものとして描かれており、彼はあるべき愛情を求めて北京から満洲国、そして日本へと越境するのである。これを踏まえ、モダンガールの形象を中心に梅娘が描く女性像について再検討し、その上で「小婦人」に描かれた対照的な二つの女性像と両者間で揺れ動く男性の心情を分析し、そこに表出された占領下の近代知識人の複雑なナショナル・アイデンティティを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、占領下における梅娘文学の全体の文脈のなかで梅娘の長編小説「小婦人」を検討する作業を行い、これにより「小婦人」における近代女性像とナショナル・アイデンティティについて明らかにすることができた。ただし大まかな結論を導き出すことができたものの、細部についてはさらに資料を収集して分析を確かなものにする必要があり、国内(東洋文庫、国立国会図書館)や中国(北京国家図書館)での調査が必須であったが、新型コロナの感染拡大により国内移動や海外渡航が制限されたため実施できなかった。また当該年度では1950年代の梅娘作品に関して中国(北京国家図書館あるいは上海図書館)で調査を行う予定であったが、同様の理由により実現できなかった。これらについて令和三年度に状況が緩和した後に行う予定である。 以上のことから、進捗状況はやや遅れていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和三年度は、当該年度に実施できなかった資料調査を行い、必要な資料を収集する。もし可能であれば中国で資料収集を行い、渡航が難しければ日本国内で調査を行い、入手した資料に基づいて分析を進める。 以上を行った上で、当初の予定通り、これまでの成果のとりまとめを行う。梅娘の長編小説「小婦人」の女性像とナショナル・アイデンティティについて(令和二年度)、戦前・戦後の梅娘作品におけるテーマの連続性について(令和元年度)の成果について、論文化の作業に着手する。さらに令和三年度が最終年度であることから、本研究を巨視的に捉えるために日本やアメリカ、ヨーロッパの戦時期の事例との比較検討を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、新型コロナの感染拡大により国内移動や海外渡航が制限されたことから、予定していた資料調査が実施できなかったことによる。令和三年度には少なくとも国内調査(東洋文庫、国立国会図書館)は行いたいと考えている。次年度使用額についてはその旅費として使用する予定である。 令和三年度の助成金については予定通り使用する予定である。
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