2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00352
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
井上 進 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (40168448)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 明版書誌 / 明代出版史 / 目録学 / 校勘学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はこれまで四半世紀にわたり、間断なく実施してきた明版書誌調査を継続しつつ、それをいよいよ総括しようとするものである。具体的に言えば、すでに蓄積されている明版書誌3000余点のうち、明代出版史ないし出版文化史、あるいは版本学の研究にとって高い資料的価値を有するものを選択し、その上に日本では見ることができないが、資料的価値が極めて高いと推定される台湾公蔵の善本書誌を積み増し、これを知見目録化すると同時に、収集した資料を利用しての論文や箚記を著すというものである。 このうち本年度の台湾公蔵善本調査については、当初の予定どおり実質5日間の調査を二度、台北の国立故宮博物院および国家図書館において実施し、新たな書誌50点足らずを収集することができた。なお国内における書誌調査は、新しい書誌を収集するというより、これまでに蓄積されている書誌の整理、目録化に際しての不審点、たとえば版本の異同とか、序跋の文字の確認といったことのため、日帰りなど短期の調査を数回行なうに止めた。また知見目録化についての具体的な状況については、下の進捗状況の項に記したとおりで、なんとか予定の範囲内で進行しているものの、今後の見通しまで含めるとかなり厳しいものがある。 さらに収集された書誌資料を用いての著書、論文等であるが、これについては研究発表の項に記したとおりで、そのうち『明史選挙志2』においては、特に台湾所見の善本に関する知見が利用されており、また「万暦野獲編校記(一)」における所校本四種はすべて台湾公蔵善本である。また本研究では国際交流を進めることも課題の一と考えているが、これについては次の進捗状況の項でその成果を述べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のもっとも中心的課題である所見明版書の知見目録化は、本研究が開始される以前すでに著録を終えていた約1300点を基礎として、これに資料的価値の特に高い書誌を加えていくという形で進行しているのであるが、本年度新たに著録された書誌は約80点で、前年度の約70点と比べれば微増したものの、当初目指していた100点には届かなかった。こうなった所以は、この二年間に著録したところは、その資料的重要性、文物的希少性が高いものばかりであるため、内容に関する記述を詳細にする必要があり、また版本系統の調査や出版に至る経緯などの考証についても、十分な時間をかける必要があるためで、数量としては精いっぱいというのが偽らざるところである。最終的に完成させるべき目録の価値を高めるためには、いたずらに量を追求するのではなく、質を確保することの方がはるかに重要であろう。こうした努力により、現在の著録点数はようやく1500点に近づきつつあり、蓄積されている書誌の精華部分を目録化するという目標も、しだいに現実的なものとなってきている。 また国際交流については、前年度に引きつづき国立故宮博物院・図書文献処および国家図書館・特蔵文献組のスタッフとの交流を通じ、良好な関係を維持できたほか、南京大学・古典文献研究所より研究代表者の旧作「『千頃堂書目』と『明史芸文志』稿」を翻訳し、研究所の機関誌である『古典文献研究』22輯上巻に掲載したいとの申し出を受け、これを受諾した。なおこの掲載誌は19年度内に刊行される予定、と聞いていたが、新型コロナ蔓延に伴う都市封鎖などの影響で、その刊行が大きく遅れているようである。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は本研究の最終年度であり、知見目録の公刊化について具体的な見通しを得るべき段階なのであるが、実のところこれについては大きな不安を感じている。その理由は新型コロナ感染症の世界的な大流行で、これにより海外調査は完全に不可能となっているし、また国内出張についても当面差し控えることが求められており、書誌調査の再開がいつになるかはまったく見通せない。ならばすでに蓄積されている書誌の整理、考証、著録はどうかと言えば、一人で行なう作業は一応継続可能であるものの、書誌の初歩的整理、また整理されたデータの入力については、これまでずっとアルバイト(短期雇用)の学生、院生に作業を担当してもらっていた。ところが現在は学生の登校さえ制限されている状態で、いつ平常の状態に戻るのかは分からない。また研究代表者が一人で行なう作業についても、本来はエフォート25%の中で行なうべきものなのであるが、今は平常の講義ができないため、オンライン等の代替手段に依らざるを得ず、その負担は極めて大きい。結果としてエフォート25%を確保することは、現状でははなはだ難しくなっている。 むろん論文、箚記等の発表は継続して行なう予定であるし、知見目録化の作業もできる範囲で継続するつもりではあるが、研究の進行に遅れが生ずることはもはや避けられない。また目録の公刊ということを考えると、完成原稿がない段階では出版社との交渉も難しいものとなることが予想され、率直に言ってこれがどうなるかは見通せないのが現状である。
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Causes of Carryover |
出張旅費と図書購入費の支出額を十分正確に把握していなかったため、本来は使い切るつもりであったものが、結果としてわずかな額を残してしまう結果となった。 使用計画)2019年度の未使用額は5千円足らずと少額であり、2020年度に旅費、もしくは人件費のうちに繰り込んで使用する予定である。
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Research Products
(2 results)
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[Book] 明史選挙志22019
Author(s)
井上進・酒井恵子
Total Pages
464
Publisher
平凡社
ISBN
978-4-582-80899-5