2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00353
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
野村 鮎子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (60288660)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 亡妻 / 哀悼 / 明清散文 / 墓誌銘 / 行状 / 憶語 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、これまでの研究の成果の一部をまとめた論文「明淸亡妻哀悼考―亡妻墓誌銘から亡妻行状へ」を発表した。 筆者の現在までの調査によれば、伝世の文献に現存する宋元の亡妻墓誌銘は51篇(うち亡妾が4篇)、祭亡妻文は34篇ある。明代に至ると、亡妻(妾)墓誌銘は155篇、祭亡妻(妾)文は155篇となり、妻に先立たれた文学者のほとんどが亡妻墓誌銘や祭亡妻文を書くようになる。さらに明の中期以降、士大夫は本格的に家庭内の女性のために行状を執筆するようになり、その対象も亡母から亡妻へと拡大した。女性の行状は本来、墓誌銘の執筆を他者に委嘱する際に親族等が提供する参考資料に過ぎず、これを正式な文体とみなすことには否定的な見方もあった。しかし、石に刻む墓誌銘には字数の制限があるのに比べて行状には字数や内容について自由度が高い。そのため礼の規範に厳格であるはずの学者ですら行状という文体で亡妻を哀悼するようになる。 この行状と墓誌銘を比べると、明人の文集に残る亡妻(妾)墓誌銘は155篇、亡妻(妾)行状は62篇なのに対し、清代では、亡妻(妾)墓誌銘175五篇、亡妻(妾)行状は194篇とその割合が逆転する。おおまかにいうと、亡妻を哀悼する散文の文体は墓誌銘から行状へと変化したといってよい。このことからも、明清士大夫の間で妻を想う情と、その情に共感する心性が文人の間で醸成されていたことが指摘できる。 一般に、明清時代には、儒教イデオロギーが社会の隅々にまで浸透し、封建的家制度の下で女性の地位は以前にもまして低下したと理解されているが、イデオロギーが士大夫の家庭生活や感情のすべてを支配していたというわけではない。むしろ、マクロ面からみれば、各々の家庭内での肉親や夫婦の間に生まれる細やかな感情の機微は士大夫の情操に大きな影響を与えた。そして、その思潮は清から民国にかけての憶語体の文学の発展へとつながる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
明清の文集を収録する叢書(『清人詩文集彙編』、『清文海』、『北京図書館古籍珍本叢刊』、『南開大学図書館蔵稀見清人別集叢刊』、『北京師範大学図書館蔵稀見清人別集叢刊』、『天津図書館珍蔵清人別集善本叢刊』、『四庫全書』『四庫全書存目叢書』『続修四庫全書』)については令和元年度の時点でほぼ終了している。ただし、再調査が必要な一部の叢書も残っており、また個別の明清文集については、中国と日本の各地の図書館での調査をする必要があるが、新型コロナウィルスの蔓延により、令和2年度に予定していた調査、および海外への学会参加は、全くかなわなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は亡妾墓誌銘に関する論文を発表する予定である。令和2年度は新型コロナウィルス感染症の拡大で、出張の計画を中止せざるを得ず、調査のための旅費が残余となったが、今後、出張可能になった時点で、予算執行する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の拡大により出張の計画を中止せざるを得ず、旅費に充当することを予定していた分が残余となった。今後、出張可能になった時点で、速やかに予算執行する予定である。
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Research Products
(1 results)