2019 Fiscal Year Research-status Report
| Project/Area Number |
18K00354
|
|---|
| Research Institution | Okayama University |
|---|
Principal Investigator |
遊佐 徹 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (60240157)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
| Keywords | 倭寇戯曲 / 日中交流史 / 明清通俗文学 / 中国演劇 / 白話小説 / 文言小説 / 東アジア文化交流史 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、主に平成30年度に作成した「明清倭寇戯曲目録（初稿）」のリストに従って実際の作品内容を確認し、その特徴（プロット、時代背景、登場人物像―倭寇の頭目、華人側のヒーロー、ヒロイン、虚構性等）を考察した。その結果、以下のような知見が得られた。
1、倭寇小説の研究では、明清白話小説作品のなかに総計9部の作品を見出したが、今回の倭寇戯曲研究に関する調査では、佚著も含め32部という作品を数え上げることができた。しかもこの数は、明清古典戯曲作品に対する調査の結果であり、今後調査対象を地方戯曲作品にまで広げればより多くの倭寇戯曲作品が見付かることを予想させるものである。
2、もちろんこの32部の作品における倭寇の描かれ方、ドラマにおける役割には濃淡がある。多くの作品は倭寇をメインテーマとしてドラマを展開している訳ではない。しかしその場合でも倭寇は単に時代背景や点景として描かれているのではなく、登場人物達の離合集散、毀誉褒貶に深い関わりを持つ存在として登場する。
3、倭寇小説の研究の際にも確認できたことであるが、戯曲作品においても倭寇は具体的な人物、戦役と結びついて描かれることが多い。これは倭寇戯曲を「時事劇」と見なす研究2を補強するものといえる。
4、3については、特に倭寇が「（平）秀吉」や「関白」と結びついて描かれたケースがいくつも見出された点を指摘しておきたい。私はかつて中国の通俗文学作品において秀吉が登場する作品に言及した際、かつて青木正児博士が指摘した3作品にかの『三言』中の名編「杜十娘怒沈百宝箱」を加えてそのほぼすべてであろうと結論付けたことがあったが、その見解は修正されなければならない。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度も引き続き所属大学大学院の副研究科長を務めたため、学内行政の相当の精力と時間を割かざるを得なかったことが大きい。この副研究科長職は、部局内教員の科研費応募率、獲得金額の向上を図る役目を担っているが、科研費への応募を促す側が、その仕事のために自身の科研費の研究に支障をきたすという皮肉な状況が生まれている。また、新型コロナウイルスの感染流行にともなう移動規制、海外渡航規制のために年度末に予定していた研究対象資料所蔵機関での調査が尽くキャンセルとなったことは、研究の進捗に大きなダメージとなった。
|
| Strategy for Future Research Activity |
今年度においては、前2年度に実施した調査と分析の結果を次の3項目を重視 してまとめることを目指している。
1、通俗文学、通俗文化および図像文化のなかで、明代以降日本、日本人が倭寇を借りてどのように描かれてきた のかを明らかにする。
2、東アジア地域における倭寇小説、倭寇戯曲の広まり、影響関係について考察する。
3、倭寇小説、倭寇戯曲の全容の提示、すなわち明代から近代に至るまでの倭寇を描いた作品の全容をデータ化して提示する。
また、昨年度末に東京大学史料編纂所が進めている「東アジアの合戦図の比較研究」の共同研究員となった。本プロジェクトは同所の「倭寇図巻研究」の後継研究であるが、今後も引き続き日・中・韓の研究者が倭寇図について共同して研究する貴重な場としても機能するものであり、このプロジェクトへの参加で倭寇の図像的イメージの研究の進展が大いに期待できる。
|
| Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、当該年度1月下旬以来の新型コロナウイルス蔓延による国内外機関（中国国家図書館、東京大学文学部図書室）での調査研究が尽くキャンセルとなったことである。
疫情が治まり次第、予定していた調査を済みやかに実施するとともに、調査結果を研究最終年度の成果に反映させるつもりである。
|
Research Products
(2 results)
