2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K00356
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
谷口 高志 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (10613317)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 趣味 / 嗜好 / 唐代文学 / 個性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来「文人趣味」として一括りにされてきた趣味・嗜好の問題を扱い、その営みにどのような意義や価値が見出されてきたかを、唐から宋にかけての文学作品を通して考察するものである。2018年度は、主に中晩唐期について考察を進めた。趣味・嗜好について言及した中晩唐期の詩文を広く収集し、嗜好の営みがどのように捉えられているかを整理し、〈他者との関係性〉や〈個の標榜〉という観点から分析を加えた。 研究の成果を、論文「偏愛する文人たち――中晩唐期における嗜好への傾倒と個の標榜――」(『九州中國學會報』第56巻、九州中國學會、2018年5月、16頁~30頁、査読有)にまとめ、発表した。その概要は以下の通りである。 嗜好への没入を詠った中晩唐期の詩文には、自らの営みに対する他者の反応がしばしば記されている。また自身の趣味・嗜好を他者のそれと比較し、自らの営みの特異性を主張しようとする姿勢も窺える。これらのことは、嗜好への没入が、自分が楽しめればそれでよいといった自己完結的な営みでは必ずしもなく、自分以外の他者への意識を孕んだ行為であったこと、嗜好の営みを通して他者と異なる〈自分らしさ〉が主張されていたことを意味している。文人たちにとって、嗜好は自らの〈個〉を象徴する営みとして認識されていたのである。なお、そのような認識が発生した要因としては、当時における、新興の文人官僚層と旧来の貴族階級の対立が指摘しうる。実利を伴わない私的な趣味・嗜好への傾倒は、貴族層・富裕層と対峙する寒門出身の文人官僚たちにとって、ある種の〈ステータス・シンボル〉として機能していたと想像される。彼ら文人たちの内面には、貴族階級(富裕層)への対抗意識があり、実利を伴わない詩歌や書画・音楽などに彼らが過度に没頭するのは、当時なお一般的であった財力や権力を中心とする価値観にアンチテーゼを示すためであったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、主に中晩唐期について研究を進め、当時において趣味・嗜好の営みがどのように捉えられているかについて考察し、その成果を論文にまとめた。中晩唐期において趣味・嗜好にいかなる意義や価値が見出されてきたか、という問題について、全体的な見通しを示すことができたと思われる。その点において、研究はおおむね順調に進展しているといえる。ただし、総合的な考察に終始し、個別の嗜好の営みについては、まだ具体的に検討しなおす余地があると思われる。たとえば、中唐期に流行しだし、宋代に継承されることになった怪石趣味については、趣味・嗜好の持つ社会的機能という観点から、より具体的に分析を行い、次年度以降における宋代文学の研究に発展させる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、前年度に引き続き中晩唐期について考察を行い、併せて宋代についても、基礎的な研究を進める。まず中唐期に流行し出す、怪石蒐集の趣味について考察を行い、嗜好をめぐる文人たちの意識のあり方を、具体的に検証する。その分析を通して、モノを介した交流の様相や、個の主張といった問題について、本年度の成果を踏まえて考察を加える。また中晩唐期において、特定の嗜好集団を表す「社」「流」「徒」といったことばが広く用いられるようになることに着目し、趣味・嗜好を共有することで、文人間にある種の集団意識(階層意識)が芽ばえだしたことについて検討する。 更に唐代における記の作品について包括的な研究を進め、記の文体の内容や形式を分類・整理する。その上で、嗜好品を主題とした記、庭園や亭台を主題とした記について特に分析を行い、詩歌における表現内容との違いに注意しながら、彼らの生活と自意識の問題について検討する。嗜好品の蒐集や、庭園の経営、亭台の建造などといった、趣味的営みを通して、文人たちがどのように自己を表現したのかについて、唐代における大まかな全体像を示し、またそこに人為と自然、自己と他者(外界)、日常と理想郷などといった問題に関するいかなる観念を窺うことができるかを検証し、次年度の宋代の研究につなげる。
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Causes of Carryover |
おおむね計画どおり予算を使うことができたが、本年度は、おもに書籍の購入やパソコン設備の充実などに予算を用い、研究環境を整えることに注力したため、他大学への資料調査や学会発表などに行くための旅費を使い切ることができなかった。次年度は、前年度に引き続き、研究環境の整備に努めるほか、資料調査や学会発表に赴き、より有効に予算を使用する計画である。
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Research Products
(1 results)