2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00356
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
谷口 高志 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (10613317)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 趣味 / 嗜好 / 愛好 / 個性 / 日常 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、前年度に引き続き、主に中晩唐期について研究を進め、趣味・嗜好の営みがどのように捉えられているかについて考察してきた。特に中唐の白居易の音楽愛好に焦点をあて、論考「白居易の音楽愛好――詩文に語られる感性と嗜好――」を脱稿した(諸事情により発表は2020年度の予定)。その考察の結果、以下のことを指摘した。 「白居易の文学において、音楽への愛好は、ときに自身の手や口を動かすことで、身体的な知覚の喜びをもたらし、またときに、他者と交流し、競い合うことで、感性の洗練を示すことにつながる。そしてまた、彼の音楽愛好は、選択と偏好を繰り返していくことで、自分だけの楽しみを創造し、自らの固有性をきめ細かく表現する手段ともなる。おそらく白居易は、音楽への愛好を、自分がどのような人間なのかを示す、一つの標識として捉えており、その営みを詩文に詠うことで、明確に自己の輪郭を描き出そうとしていたものと想像される」。「音楽の楽しみは、中唐の白居易に至って、自らの固有性を緻密に表現する具として、高度に磨き上げられることとなった。そうした彼の営為は、後世における文人趣味、即ち生活スタイルそのものの藝術化を図る志向の先駆けとして、極めて大きな意味を持つ。白居易にとっては、いうならば日常生活の営みそのものが、自己表現の舞台であり、創造の場だったのであり、彼の文学の特徴の一つである日常への関心とは、何気ない日常を、自分の色に染め上げていく喜びと一体のものであった、と考えられる」。 そのほか、論考「中唐期の詩歌における祭祀と龍――龍を斬る詩人たち――」(2019年10月、『中唐文学会報』26, 44-83)を発表した。中唐期の文人たちの民間祭祀に対する態度や意識を、龍神信仰を通して考察し、この時代に起こりつつあった価値観の転換、朝廷と個人の関係性の変容などに論及した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は研究誌への投稿依頼などがあり、中唐白居易の音楽趣味に焦点をあてて考察を行ったが、その考察や発表に予想以上に時間がかかり、そこで得られた知見を、より広い視野から検討し直すまでには至らなかった。当初想定していた計画を順調に進めることができず、また怪石趣味を始めとするモノへの固執や、北宋期における新たな展開にまで踏み込んだ検討を行うこともできなかった。 ただし、白居易の音楽趣味について再考することで、白居易の文学における趣味・嗜好の定型化、日常生活の規範化という新たな課題も浮上した。次年度はまずその問題について、検討してみたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、中晩唐期における趣味・嗜好の問題について、宋代も視野に入れて検討し、日常生活を個の象徴と見なす意識の発生と展開について、大きな見通しを示したい。 まず前年度の成果を承け、白居易における日常の規範化という課題に取り組む。閑居の暮らしを詠った彼の詩文には、嗜好に耽る順序や、その営みの規則性(循環性)に触れたものが数多く見られる。彼にとっての日常とは、高度に調律されたものでなくてはならず、私的な時空においても、ある種の規範意識(勤勉さ)が強く働いていた。閑適を好むといっても、彼はただ無為に日常を送っていたわけではなく、常に何かの営みに没頭し続けることで、〈自分らしさ〉を保とうとした。日常生活おける、こうした〈勤勉さ〉は、中唐における〈苦吟〉への傾倒(詩文学への没頭的傾向)や、科挙受験期における苦学の体験とも連動したものであり、中国文人の精神史における、ある種の価値観の転換を意味していると思われる。 以上の観点から、これまでの研究を踏まえつつ、趣味・嗜好の問題を総合的に捉え直し、この時期における日常生活への関心の高まりを、科挙を経験した新興の文人官僚層における価値観の転換として位置づけたい。
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Causes of Carryover |
学内の業務の都合により、出張に十分に行くことができず、予算が若干残ってしまった。次年度は図書の購入などを早めに行い、翌年度分として請求した助成金も含めて、計画的に執行したい。
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Research Products
(2 results)