2020 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of Hobbies and Tastes of Literati in the Tang and Song Dynasties
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18K00356
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
谷口 高志 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (10613317)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 趣味 / 嗜好 / 生活様式 / 個性 / 身体 / 感性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来文人趣味として一括りにされてきた趣味・嗜好の問題を扱い、その営みにどのような意義や価値が見出されてきたかを、唐から宋にかけての文学作品を通して考察するものである。2020年度は、主に中晩唐期について研究を進め、趣味の営みが文人たちの〈個〉を象徴するものとして意識されだしたことを、個別の事例に即して具体的に検討し、その成果として「白居易の音楽愛好――詩文に語られる感性と嗜好――」を発表した。当論考では、白居易の音楽趣味に関する詩文を取りあげ、それらを演奏と吟誦、社交と競争、選択と偏愛の類型に分けて考察し、白居易が自らの感性と嗜好を介して、どのように〈自分らしさ〉を表現していたのかを仔細に分析した。白居易の音楽趣味とは、他者との交流や競争のなかで行われるものであると同時に、選択や偏好を繰り返していくことで、自分だけの楽しみを創造し、自らの固有性をきめ細かく表現する手段となるものであった。彼は音楽への愛好を、他者と異なる〈自分らしさ〉を示す一つの標識として捉えており、その楽しみを追求する日常生活そのものが、彼にとっては自己表現の舞台であり、また創造の場であったと考えられる。こうした日常生活の捉え方は、大きな価値観の転換を物語っており、宋代に至る新たな生活意識の萌芽として重要な意味を持つと考えられる。 また、論考「唐代文人と辺地の神――白居易の祝文を中心に――」を発表し、唐代の文人たちが地方官として、当地の神霊にどのような態度で接し、いかなる意識や感情を抱いていたのかを、祝文を通して検討した。特に白居易の祝文とそれに関連する作品について考察し、神を人に従属させようとする意識が露わになること、またそうした神への対抗心や反発心のなかに、前代までに見られなかった新たな近世的な価値観が認められることについて論及した。
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