2020 Fiscal Year Annual Research Report
The study of Ci lyrics by three most significant "Guan Liu" poets before and after the fall of the North Song Dynasty
Project/Area Number |
18K00361
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Research Institution | Tokai Gakuen University |
Principal Investigator |
松尾 肇子 東海学園大学, 人文学部, 教授 (20202319)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 晁補之 / いんかつ / 集句 / 典故 / 転踏 / 調笑 / 『楽府雅詞』 |
Outline of Annual Research Achievements |
晁補之は字を无咎といい、北宋後期、黄庭堅・秦観・張耒と並んで蘇門の四学士の一人に数えられた。彼の詞は、南宋初期の詞選集『楽府雅詞』に多数収録されて当時の評価の高さを示している。彼は、蘇軾が開発した「いんかつ」という技法を唐・盧仝の古詩「有所思」において実践し、また杜牧の詩を典故として愛用した。それら晩唐詩人に見られる平易な表現と叙情性とは晁補之詞にも当てはまる。彼はまた王安石が始めた集句詞の手法で「江神子」詞を制作したが、典拠を詩に限らず詞にも拡大し、長短句の字数に合わせるため断章するなど独自の手法を試みた。この時期に盛んに制作に用いられた上記二種の技法は作者の個人的背景も新奇な着想も捨象するだけに、純粋に作者の技量を示すともいえる。また対象の選択には作者の志向が表れ、王安石や蘇軾にもみられた中晩唐詩に加えて、晁補之においては北宋の詩詞も採取された。 ところで、晁補之には芸能の一種である転踏「調笑」があり、上品な先行作品の選択と博識に裏打ちされた集句・「いんかつ」・典故の技法が集中的に使用されている。その「温潤典縟」な作風と音楽性の高さは、『楽府雅詞』が編纂された南宋初という時期に雅詞として人々が求めるものに合致したと考えられる。しかしその後の詞壇は専門性を増し、抽象度の高い言葉を用いてイメージを積み重ねる、象徴的な詞が高く評価されるようになる。そのために、磨かれた表現ではあるが分かりやすく並べられ穏やかに流れていく晁補之詞は否定されることもあった。それでも南宋末当時において柳永と並び称された彼の詞は、教坊(音楽署)の楽人達からさえ依頼を受けて詞を作ったという柳永に劣らず、歌唱に耐える音楽性の高いものであり、その平易な表現とともに一般には人気があったことを示しているといえよう。
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