2018 Fiscal Year Research-status Report
Melville in His Later Years: His Asthetics and Politics from Transatlantic Perspectives
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18K00368
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
斎木 郁乃 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (90294355)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ハーマン・メルヴィル / トランスナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度最大の成果は、メルヴィルのトランスナショナリズムをテーマにした博士論文を完成させたことである(2018年12月、カリフォルニア大学リヴァーサイド校に提出)。Melville on the Beach: Transnationl Visions of America と題した当該論文は、その多くの章が過去に出版された論文に基づいているが、"Benito Cereno"、Moby-Dick、およびJohn Marrを扱った各章はトランスアトランティックな視点からかなりの改稿をし、本研究の趣意にも沿うものになっている。とりわけ、ペリー・ミラーの均質なアメリカ国家像とアメリカ研究の誕生の関係性を、メルヴィルのポリネシア体験に基づくトランスナショナルな国家観、世界観を比較して論じたイントロダクションは、メルヴィルの初期作品から後期作品を通じて流れる人種、ジェンダー、階級に対する当時としては先見的な思考を明らかにすると共に、1990年代以降のトランスナショナルなアメリカ文学研究とメルヴィル研究の緊密な関係性を熟考し、晩年のメルヴィルの美学と政治性を考察する上の重要な第一歩となった。 また、Billy Buddにおける父性をテーマにした論考の概要を、2019年6月にニューヨークで開催される国際メルヴィル学会に提出し、発表を許可された。その準備として、The Melville Log 及びRobertson-LorantとParkerによるbiographyなどメルヴィルの伝記的な情報を、父親像の観点からまとめた。特に早逝したメルヴィルの父、Allan Melvilleがハーマンを含む子供達及び甥らに発揮した父親としての役割とヴィクトリア朝的父親像との比較は、今後のBilly Budd論に影響をもたらす有意義な発見であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
博士論文の執筆は科研応募当時には予定していなかったが、結果的にイントロダクションを書くことでこれまでのメルヴィル研究をまとめると同時に、後期メルヴィル作品との断絶を埋めるいくつかのアイディアを得ることができた。また、Paul Giles やAmy Kaplan、Eric Sandquistなど、トランスナショナリズムに関する重要文献を熟読し、メルヴィルの政治性について考察する上での基礎的な知識を得るとともに、アメリカ文学批評の流れも再確認することができた。Billy Budd論を構築するための文献調査をカリフォルニア大学リヴァーサイド校にて約1ヶ月に渡り行い、特にヴィクトリア朝的父親像についてのいくつかの重要な文献を見つけることができた。Billy Budd論のプロポーザルを完成させ、2019年6月にメルヴィル生誕200周年を記念してニューヨーク大学にて開催される予定の国際学会における発表を認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年6月までは、国際メルヴィル学会での発表原稿作成に主に取り組む。Billy Buddの過去の批評やヴィクトリア朝の父性に関する社会学的、歴史的文献をさらに読み進め、メルヴィルの伝記的な事実と照らし合わせた上で、父親としてのメルヴィル像について考察する。また、7月から8月にマカオで開催される国際比較文学会において、太平洋文化とメルヴィルについての研究発表を行う予定で、その準備も同時に進める。この論文は主にトランスパシフィックな視点から論じる予定だが、19世紀の捕鯨業を通してアメリカ、日本、ハワイ、フィリピン、マカオ、ヨーロッパなどの関係性について考察する意味では、本研究にも資するものとなることを期待している。 夏以降は、上記2件の発表原稿を投稿論文の形にすることに専念する。また同時に、メルヴィルの韻文について、一次文献も含めた基本的な文献を読み直し、その政治と美学について考察していく。 6月にニューヨークとピッツフィールド(マサチューセッツ州)にて、7、8月にカリフォルニアにて文献調査を行う。
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