2023 Fiscal Year Research-status Report
大学と社会――19世紀中葉以降のアメリカ大学小説から現代を逆なでに読む
Project/Area Number |
18K00375
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
大野 瀬津子 九州工業大学, 教養教育院, 教授 (50380720)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 大学小説 / 大学論 / ヘンリー・ソロー / セアラ・オーン・ジュエット / F.O. マシーセン / アメリカ文学 / スコットランド道徳哲学 / 修辞学・雄弁術 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 本プロジェクトを通して調べてきた、スコットランドの道徳哲学と修辞学・雄弁術が19世紀アメリカ社会や文学に与えた影響について整理し、九州アメリカ文学会例会(9月2日於九州工業大学)で口頭発表した。 2.19世紀のハーヴァード大学で修辞学・雄弁術を学んだH.D.ソローの文学的評価に関わる関わる考察を、日本ソロー学会2023年度大会シンポジウム (10月20日於札幌駅前ビジネススペース)で口頭発表するとともに、加筆修正を施した論文を『ヘンリー・ソロー研究論集』第49号に寄稿した。同論考では、20世紀の批評家F.O.マシーセンが、ソローをスコットランド道徳哲学と不可分の共感という物差しでは測っていないこと、またソローと女性作家S.O.ジュエットを鋭敏な身体感覚と土壌とのつながりを感じさせる言語表現という共通の物差しで高く評価していることを明らかにした。 3.本プロジェクトの総まとめとして、1870年代までのアメリカ大学小説の分析をNineteenth-Century Studies Associationsの第45回年次大会(於アメリカ合衆国ケンタッキー州 The Embassy Suites (by Hilton) in Louisville 3/13~3/16)で口頭発表した。同発表では、大学人と一般市民との交流のありようを問う系譜として1870年代までの大学小説を位置付けた。 4.ルイヴィル大学の図書館(Ekstrom LibraryとKornhauser Health Sciences Library)で19世紀の学生生活に関わる資料を入手した。 5.所属大学の同僚と行っていた分野横断型の研究会に新たな同僚が加わり、総勢5名から9名の異分野研究交流会を5回行なった。同研究交流会で日本ソロー学会の発表の予行演習をし、そこでもらったコメントや指摘を踏まえ原稿を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで考察してきた大学小説に、Yale College "Scrapes"(1852)とFair Harvard: A Story of American College Life(1869)の考察を新たに加え、これらを大学人と一般市民との交流のありようを問う小説の系譜として整理し、国際学会で口頭発表することができた。同時に19世紀の学生生活に関わる資料を入手することもできた。加えて、上記の大学小説とほぼ同時期に著作を発表したソローとジュエットに関わる口頭発表をし、論文を執筆することで、より広い視点から当時の知識人文化を捉えることができた。さらに異分野研究交流会を通じ、様々な分野の研究者からコメントを得られたことは、本プロジェクトを進める上で大きな糧となった。ただし本プロジェクトを締め括る実践的試みとして予定していた、複数の領域の専門家と一般市民でともに学術について考えるイベントを開催することができなかったため、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトを締め括る実践的試みとして、異なる学問分野を専門とする複数の研究者による一般市民参加型イベントを開催し、そこで19世紀の一般市民が関わっていた大学外部の学術的運動について、自らも発表する。また、その発表内容を論文として公表する。
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Causes of Carryover |
九州アメリカ文学会例会、およびNineteenth-Century Studies Assoricationにおける口頭発表、また日本ソロー学会大会シンポジウムでの口頭発表とその原稿の論文化等に力を注いだため、異なる学問領域の専門家による市民参加型イベントを開催する余裕がなかった。次年度は本プロジェクトの集大成として開催する同学術イベントへの講師の招聘のために予算を計上する。
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