2020 Fiscal Year Research-status Report
「個人」から「政治」へ―現代英語圏の女性向けポピュラーフィクションの可能性を探る
Project/Area Number |
18K00378
|
Research Institution | Fuji Women's University |
Principal Investigator |
英 美由紀 藤女子大学, 文学部, 准教授 (40623830)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ポピュラー・ロマンス / チック・リット / フェミニズム / ポストフェミニズム / フェミニスト出版社 / ヴィラゴ・プレス |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度から継続中の課題として、1990年代のイギリスに端を発する「チック・リット」の、同時期のポストフェミニズムとの関連についての考察を行い、所属学会の学会誌上で発表した。そこでは、このジャンルと関連づけられるポストフェミニズムとともに(あるいはそれ以上に)第二波フェミニズムの要素が見出される作家・作品に目を向けることで、このジャンルの多様性、さらにポストフェミニズムの多義性を主張した。 併行して、このジャンルに相当すると考えられる日本のポピュラー・フィクション「L文学」との比較研究を行い、海外研究者との共著書内の1章として論考を提出した。「L」が「(ウィメンズ・)リブ」を表すという定義にも明らかなように、このジャンルは第二波フェミニズムとの共鳴を示すものとされる。そこでこのジャンルをチック・リットのアダプテーションと位置づけ、日本の社会文化的文脈にも置きながら、両ジャンルの相違を論じた。 また、本年度新たに着手した課題としては、フェミニズムと(ポピュラー・)フィクションとの関連を第二波フェミニズム期に遡り、まずそれらを媒介したフェミニスト出版社の再検証を行ったことが挙げられる。考察の一部は大学紀要に掲載したが、そこではイギリスを代表するフェミニスト出版社で、同時期に創業した出版社中唯一今日まで存続するヴィラゴ・プレスに焦点を当てた。同社の代表的出版物とされる「モダン・クラシックス・シリーズ」は女性作家の「再発見」や文学カノンの再形成の一役を担い、初期フェミニズム批評とも呼応するものであった反面、同社の大手出版傘下への参入については、政治的な自律性という観点から批判する声も多かった。この点については改めて論考を発表することにしている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の成果を順次発表している。
|
Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」に記した通り、2021年度もヴィラゴ・プレスの「フェミニスト出版社」としての位置づけをめぐる議論についての考察を継続し、論文として発表する予定である。 また同時期のフェミニズムを広く知らしめたとされる(ポピュラー・)フィクションについて、エリカ・ジョングやマリリン・フレンチら代表的な著作から始め、考察の範囲を広げていく予定である。それにより、第二波フェミニズム以降、現在までのフェミニズムとフィクションの関連について、体系的に捉えることができると考える。
|
Causes of Carryover |
出席を予定していた国内外の学会が中止、またはオンライン開催となり、出張旅費を使用しなかったため。
|