2020 Fiscal Year Research-status Report
Burlesque and Popular Culture in the Eighteenth Century Britain
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18K00380
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
海老澤 豊 駿河台大学, 法学部, 教授 (90298307)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 英詩 / バーレスク詩 / 18世紀 / 茶 / ゴルフ |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は「18世紀初頭の英国におけるバーレスク詩」の研究の一環として、以下の2本の論文を作成した。 「テイトとモットーの飲茶詩を読む」18世紀初頭の英国では飲料を主題とする詩が書かれた。ネイハム・テイトは『万能薬、茶に関する詩』(1700)で、ル・コンテの中国に関する記録を基に、夏王朝の逸話を換骨奪胎して茶の効用を説き、第2部ではギリシアの神々の間で誰が茶の保護者となるかについて論争が巻き起こる。モットーの『茶に関する詩』(1712)でもギリシアの神々が茶の効用について議論を戦わせる。作者未詳の『茶、3巻からなる詩』(1743)は擬人法を駆使して、神々が争うさまを描く。この3篇は第1級の作品とは言い難いが、18世紀において英国で茶がいかに受容されたかという現象を如実に表象しているのである。(『駿河台大学論叢』第60号 2020年7月発行 79―89頁) 「マシソンの疑似英雄詩『ゴフ』」18世紀前半の英国で流行した疑似英雄詩の下位区分「競技詩」の一つにトマス・マシソンの『ゴフ』(1743)がある。ゴルフはスコットランド発祥のスポーツとされ、今日のゴルフ・ルールの基礎はエディンバラのゴルフ・クラブで制定された。この作品では作者とおぼしきピグマリオンがカスタリオとエディンバラの名門ゴルフ・コースで1対1のマッチに臨む。ゴルフを司る女神ゴルフィニアの見守るなか、両者には叙事詩のmachineである妖精たちが守護者として付き添い、牧神パーンの妨害などを挟みながら、叙事詩さながらの表現で往時のゴルフ競技を見事に活写している。(『駿河台大学論叢』第61号 2020年12月発行 25―34頁) 前者は18世紀初頭に英国で流行し始めた飲茶の習慣にまつわるバーレスク詩を3本まとめて論じた。後者はスコットランドで古くから盛んであったゴルフを題材にしたバーレスク詩を取り上げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は研究成果を上記の2本の論文にまとめることができた。「テイトとモットーの飲茶詩を読む」は、18世紀初頭に続々と書かれた飲料や食品を主題にしたバーレスク詩の一つで、他にはフェントンの『穀物酒』(1706)、ゲイの『葡萄酒』(1708)、フィリップスの『林檎酒』(1708)、キングの『料理法』(1708)などがある。相次ぐ対外戦争のあおりを受けた国民意識の高揚とともに、フランスなど海外の飲食と比較して、英国の飲料や食事を称賛する作品群である。 「マシソンの疑似英雄詩『ゴフ』」はゴルフを単独の主題にした作品としては最も初期のものとされ、スポーツを主題にした競技詩に含まれる。他にもアディソンの「転球場」(1678))、コンカネンの「フットボールの試合」(1720)、ホワイトヘッドの『ジムナジアッド(ボクシング)』(1744)などがある。いずれも民衆の間で盛んに行われたわれた娯楽としての競技が、疑似的な戦闘として描かれていることが特徴である。 2020年度はこの他にも以下の作品の読解に時間を費やした。フィリップスの「光り輝くシリング銀貨」(1701)はミルトンが『失楽園』で採用したブランク・ヴァースの文体で、借金取りに脅えながらも休タバコを吸い、酒場でエールを飲むことを夢想する哀れな貧乏詩人を描いたバーレスク詩で、文体と主題のズレに起因するおかしさを狙ったものである。 さらにスペンサーの『妖精の女王』の詩形で卑近な主題を扱うバーレスク詩の読解も進めた。主な作品としてはポープの「横町」(1728)、エイケンサイドの「ヴィルトゥオーソ」(1737)、シェンストンの『女教師』(1737)、トムソンの『怠惰の城』(1748)などがある。これらの作品群については2021年度に論文としてまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記に記したように、2021年度の研究テーマとしては以下の2点を予定している。まずはミルトン流のブランク・ヴァースを用いて卑近な主題を扱うバーレスク詩として、イライジャ・フェントンの『穀物酒』(1706)を取り上げる。これはブレニムの戦闘で大勝したチャーチルのために乾杯するにはどの酒が良いかという論争を描いたもので、オリュンポスではバッコスが葡萄酒を主張し、ケレスはエールを推賞するが、最後にはジョーヴの裁定によって英国産のエールが選ばれる。 ジョン・ゲイの『葡萄酒』(1708)はヒロイック・カプレットの詩形で飲酒という同様な主題を扱った作品で、ロンドンの酒場における飲酒文化が迫真力をもって描かれている。葡萄酒は外国産のものであるが、作品の最後にはチャーチルを始めとする英国の政治家たちに向けた賛辞が連ねられており、アン女王を頂点にいただく国威発揚の気味が感じられる。 2点目としてスペンサー連で書かれたバーレスク詩を取り上げる。ポープの「横町」はロンドン東部の漁師町を徘徊しながら、労働者階級の暮らしぶりを歌っていく戯れ歌で、後の詩人たちにスペンサーの文体で卑近な題材を扱うというアイデアを伝えた。若き日のエイケンサイドがものした「ヴィルトゥオーソ」は医学実験や骨董集めに身をやつす好事家をユーモラスに描いた作品である。シェンストンの『女教師』は小学校時分に教えを受け、叱られもした女教師のスケッチを中心に、腕白小僧の日常を面白おかしく、しかも懐旧を込めて描いた作品で、15年の間に2度の改稿を経た3つのヴァージョンが存在する。トムソンの『怠惰の城』は2巻から成る物語詩で、第1巻では魔法使いアーキマゴの魅力に囚われて「怠惰の城」で無為に過ごす人々の姿を描き、第2巻では勤勉と技芸の騎士がアーキマゴを網で絡め取って人々を救い出すが、詩人の心情は明らかに城内で暮らす怠惰な人々に向けられている。
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